仕事の報酬 ~ N-one ~ A Chorus Line ~
26,2013 01:14
納車から半年 新車の香りが漂うN-oneは
紅花の絨毯で覆われた山間の
グーグルアースで見ると フワリと舞い降りたアゲハ蝶の形をした山村にある
コンビニエンスストア「BENIBANA」の前で止まった
コンビニとは言っても
それは この店の入口に書かれているだけであって
記憶に残る 駄菓子屋そのものだった

僕は 眼をゆっくり閉じると 一呼吸 そして改めて眼を開く
そこには 眼を閉じる前に見た風景が 寸分違わずそのまま広がっていた
「帰ってきた・・・」
やさしい空気が 僕の身体をゆるりと取り巻いた
僕は20年前 生まれ育った この村を飛び出し 東京の商社に入社した
刺激的な都会の生活は 常に変化する世界
そこに存在する人や物 そしてそれらに纏わり付く光と影は
二度と同じ姿を見せることはなかった
この流れに適合するものは より大きな刺激を受けることができ
そうでないものは 排除された
損な東京に僕は愛された
右も左もわからない田舎育ちの自分が
20年間 排除されずにいられたのだから
健康だけが自慢の僕は 我武者羅に働いた
そして いつの間にか
湾岸にそびえるタワーマンションに住み AMGに乗った
誰もが羨む 東京人だった
そんな僕が 行きつけのバーで何気なく見たTVの中に
故郷があった
紅花の葉に溜まった朝露が ホロリと こぼれる瞬間を目にしたとき
漆黒の髪がさらりとなびく女性の後ろ姿が浮かんだ・・・
その日以来・・・
僕の瞳に映る東京は ベールに覆われ くすんだ
空も海も空気も 人の想いも何もかも・・・
気が付くと僕は 東京から排除されていた
コンビニのような店に入った僕は
「すいませーん」
と叫んぶ 都会では ほとんど口にしなくなった挨拶が
この店には よく似合っていた
店の裏庭の方から はーいという 小さな返事が聞こえる
暫くすると 紅花の香りと共に 黒髪をふわりとなびかせた女性が現れた
遠い昔のある時期 僕の隣を歩いていたカノジョは
20年ぶりの再会に
右目で微笑みを 左目で悲しみを浮かべた
「この店で僕を 雇ってくれないかい」
唐突な問いに
「無理よ こんな小さな店で 人なんか雇えません」
背を向けたままのカノジョの言葉・・・
僕は 菊一文字の剣先を突き付けられたように感じた
「報酬はいらない 都会で知り得た情報で この店を繁盛させたいんだ」
カノジョと会話を楽しもうとする僕に
「都会に慣れた人が いまさら田舎の生活なんて耐えられないわ」
カノジョの会話は 山から流れる湧き水のように冷たかった
その日の僕は 白旗を上げた
それから毎日 僕はカノジョを訪ねたが
難攻不落のカルカソンヌのような カノジョの心は扉を開けなかった
AMGを売って手に入れた N-oneが駐車場で寂しく佇んでいる
この村に馴染めない 等身大の自分がそこにいた
カノジョとの再会から一週間経った
今日で最後にしようと心に誓った僕は 1枚のDVDを手に カノジョの店に入った
今日もカノジョは店にいた
気が付けば あの日以来 僕がこの店を訪ねるとカノジョは常に店にいた
僕は 少しだけ笑顔を浮かべてカノジョに言った
「覚えてるかい・・・この映画のストーリー・・・」
手にしたDVDは カノジョと一緒に見た最初で最後の映画コーラスライン・・・
「キャシー(Alyson Reed)は 主役の舞台に立ったあと
コーラスラインへ戻ってきた
都落ちのようなコーラスラインの舞台に立つことはできないと廻りからは言われても
懸命な努力で 自分の場所を勝ち取った
だから 僕も 決してあきらめない
この村で君の傍にいることが 僕の居場所なんだ!」
カノジョの瞳が僕の瞳の奥を見つめる 僕は怯まずに続けた
「20年前 君は僕のプロポーズを断った
でもそれは 君の本心じゃない
なぜなら君は 僕に背を向けていた
紅花についた 朝露のように流れる 大粒の涙を必死に隠していた・・・
僕の将来を想って この村には似合わない ウソをついた
それに気づくのに 僕は20年かかってしまった」
カノジョのオレンジ色の頬を一筋の涙がこぼれた
20年・・・遠回りした僕とカノジョの道が ようやくクロスした
「この店で働きたい この間は無報酬といったけど・・・
報酬は 君じゃダメかい?」
カノジョの顔が 真っ赤になった
「それは 貴方の働き次第よ」
そういうカノジョは Oneを口ずさんでいた
それは 僕がコーラスラインに立てた瞬間だった
駐車場で待つ 愛車のN-oneのボンネットには
オオムラサキが止まっている
彼も この街に受け入れられたようだ
1975年7月25日 ニューヨーク ブロードウェイで『コーラスライン』初演がありました
紅花の絨毯で覆われた山間の
グーグルアースで見ると フワリと舞い降りたアゲハ蝶の形をした山村にある
コンビニエンスストア「BENIBANA」の前で止まった
コンビニとは言っても
それは この店の入口に書かれているだけであって
記憶に残る 駄菓子屋そのものだった

僕は 眼をゆっくり閉じると 一呼吸 そして改めて眼を開く
そこには 眼を閉じる前に見た風景が 寸分違わずそのまま広がっていた
「帰ってきた・・・」
やさしい空気が 僕の身体をゆるりと取り巻いた
僕は20年前 生まれ育った この村を飛び出し 東京の商社に入社した
刺激的な都会の生活は 常に変化する世界
そこに存在する人や物 そしてそれらに纏わり付く光と影は
二度と同じ姿を見せることはなかった
この流れに適合するものは より大きな刺激を受けることができ
そうでないものは 排除された
損な東京に僕は愛された
右も左もわからない田舎育ちの自分が
20年間 排除されずにいられたのだから
健康だけが自慢の僕は 我武者羅に働いた
そして いつの間にか
湾岸にそびえるタワーマンションに住み AMGに乗った
誰もが羨む 東京人だった
そんな僕が 行きつけのバーで何気なく見たTVの中に
故郷があった
紅花の葉に溜まった朝露が ホロリと こぼれる瞬間を目にしたとき
漆黒の髪がさらりとなびく女性の後ろ姿が浮かんだ・・・
その日以来・・・
僕の瞳に映る東京は ベールに覆われ くすんだ
空も海も空気も 人の想いも何もかも・・・
気が付くと僕は 東京から排除されていた
コンビニのような店に入った僕は
「すいませーん」
と叫んぶ 都会では ほとんど口にしなくなった挨拶が
この店には よく似合っていた
店の裏庭の方から はーいという 小さな返事が聞こえる
暫くすると 紅花の香りと共に 黒髪をふわりとなびかせた女性が現れた
遠い昔のある時期 僕の隣を歩いていたカノジョは
20年ぶりの再会に
右目で微笑みを 左目で悲しみを浮かべた
「この店で僕を 雇ってくれないかい」
唐突な問いに
「無理よ こんな小さな店で 人なんか雇えません」
背を向けたままのカノジョの言葉・・・
僕は 菊一文字の剣先を突き付けられたように感じた
「報酬はいらない 都会で知り得た情報で この店を繁盛させたいんだ」
カノジョと会話を楽しもうとする僕に
「都会に慣れた人が いまさら田舎の生活なんて耐えられないわ」
カノジョの会話は 山から流れる湧き水のように冷たかった
その日の僕は 白旗を上げた
それから毎日 僕はカノジョを訪ねたが
難攻不落のカルカソンヌのような カノジョの心は扉を開けなかった
AMGを売って手に入れた N-oneが駐車場で寂しく佇んでいる
この村に馴染めない 等身大の自分がそこにいた
カノジョとの再会から一週間経った
今日で最後にしようと心に誓った僕は 1枚のDVDを手に カノジョの店に入った
今日もカノジョは店にいた
気が付けば あの日以来 僕がこの店を訪ねるとカノジョは常に店にいた
僕は 少しだけ笑顔を浮かべてカノジョに言った
「覚えてるかい・・・この映画のストーリー・・・」
手にしたDVDは カノジョと一緒に見た最初で最後の映画コーラスライン・・・
「キャシー(Alyson Reed)は 主役の舞台に立ったあと
コーラスラインへ戻ってきた
都落ちのようなコーラスラインの舞台に立つことはできないと廻りからは言われても
懸命な努力で 自分の場所を勝ち取った
だから 僕も 決してあきらめない
この村で君の傍にいることが 僕の居場所なんだ!」
カノジョの瞳が僕の瞳の奥を見つめる 僕は怯まずに続けた
「20年前 君は僕のプロポーズを断った
でもそれは 君の本心じゃない
なぜなら君は 僕に背を向けていた
紅花についた 朝露のように流れる 大粒の涙を必死に隠していた・・・
僕の将来を想って この村には似合わない ウソをついた
それに気づくのに 僕は20年かかってしまった」
カノジョのオレンジ色の頬を一筋の涙がこぼれた
20年・・・遠回りした僕とカノジョの道が ようやくクロスした
「この店で働きたい この間は無報酬といったけど・・・
報酬は 君じゃダメかい?」
カノジョの顔が 真っ赤になった
「それは 貴方の働き次第よ」
そういうカノジョは Oneを口ずさんでいた
それは 僕がコーラスラインに立てた瞬間だった
駐車場で待つ 愛車のN-oneのボンネットには
オオムラサキが止まっている
彼も この街に受け入れられたようだ
1975年7月25日 ニューヨーク ブロードウェイで『コーラスライン』初演がありました
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