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凍りついた時計 ~ CT200h ~ ナチュラル ~

 09,2012 23:23
CT200hを駆って 野球場についた時 既に野球教室は始まっていた
地元プロ球団が主催する 小学生を対象とした野球教室は
有名選手による指導が魅力的だった
Ct200h

僕は 野球が嫌いだ・・・
しかし どんな因果か息子のJunは
将来の夢を 『大リーグのホームラン王』と掲げていた
月面着陸よりも難しい目標だが
彼の真っ直ぐな瞳と カノジョ(家内)の熱心な応援姿を見ると 
父親として賛同するしかなかった

憧れの選手たちと触れ合い 何時になく真剣な眼差しの息子を見ると 
自分の趣味嗜好は 心の箪笥の中に仕舞っておくべきだと思った

そんなとき 赤地に白の水玉という
ミッキーマウスのようなネクタイをした紳士が現れた
素振りの一つもやっていないのに 冷蔵庫から出したばかりのコーラの様に
汗一杯の彼は どうやら教室の主催者らしい
 
 「さぁ皆さん ここで親善タイムです
  お父さんと プロ野球選手の対決です みんなも応援しましょう」
子供たちから 歓声が上がった
 「僕のパパは 元プロ野球選手だぞ・・・」
 「うちの父さんだって 今も地元チームの4番だ!」・・・
子供たちの父親自慢が始まる中 僕は茫然と立ちすくんだ
 「聞いていないよ・・・」

すると隣で僕を見ていたJunが言った
 「パパは野球嫌いでしょ やらなくていいよ 怪我しちゃうし・・・」
・・・不完全燃焼・・・
そんな言葉が3Dになって僕の目の前に現れた

Junの隣で 視線を送り続けるカノジョが言った
 「投げて・・・」
その瞬間 僕の中で 3D文字が弾けた
 「人には 引いちゃぁ いけない時があるんだ
  パパにとって 今日はその日のようだ」
息子の頭を撫でながら 僕は言った



「あんたは ピッチャーかい? それともバッター?」
右の口元をきゅっと釣り上げるのが癖なのだろう 
その選手は 僕に声をかけてきた ベンチ裏で淋しい話しをしていた選手だった・・・

遅れて到着した 僕らが選手控室前を通過したとき 彼らの話し声が漏れ聞こえてきた
 「こんなイベント 子供たちが気の毒だよ
  どんなに頑張っても 彼らじゃ プロにはなれないよ 
  僕みたいにセンスがあるのは当たり前
  それ以外に 金持ちが条件になる
  金が 優秀かつ適切な人間関係が作れる それで初めてプロになれるんだ
  誰もが平等なんてことはあり得ない 幻想を与えることは罪だよ・・・ 」
有名な選手だった 
テレビの前では 子供たちに夢を語る 英雄の冷たい言葉に
僕は 小さな怒りを覚えた

 「・・・ピッチャー」
 「残念だね 俺が相手だ 子供にいいところは見せらんないなぁ」
鼻で笑うような態度の選手に 僕は皮肉を込めて言った 
 「君の倍近く生きている人間を 見くびるもんじゃない・・・
  人の出会いは金じゃ買えなことも 教えてあげよう」
選手は ばつの悪そうな表情を浮かべるとChi!と舌を鳴らして去って行った
 
プロ選手は はじめこそ手加減して 父親に花をもたせていたが
だんだんプライドが勝ってきたのか 父親側は惨敗に終わっていた

そんな中 僕は30年ぶりにマウンドに立った
 「野球は苦手じゃない 嫌いなだけだ・・・」
頭上に広がる青い空を見上げた 30年前のあの日もこんな空だった・・・


 「お願い! 明日試合で 負けて欲しいの」
カノジョからの唐突なお願いは 僕の思考を停止させた
僕の学校は 甲子園を目差して順当に勝ち進み 明日は準決勝戦だった
1年ながらマウンドを任されていた僕は 無理だと言った
 「つぎ試合は 兄の学校なの 兄は今年3年生 もう後が無いのよ
  あなたなら来年 間違いなく甲子園に行ける」
先輩(カノジョの兄さん)は僕に野球を教えてくれた 恩人だ
いろんな思いが頭を巡った

しかし次の試合 僕は勝ってしまった どうしても妥協することはできなかった 
その夜 カノジョから電話が入った 
 「私の思いは あなたに何も響かないのね・・・さよなら」
カノジョが放った絶対零度の4文字は 僕の心を永久凍土に変えた

その年 僕は甲子園の切符を逃した
正確に言えば 決勝戦を戦わずして僕は野球部を去った
僕の野球人生が終わった・・・
それから20年たったある日
先輩から 突然呼び出された 
”Cinema bar Casablanca”で待つ僕の前に現れたのは 先輩とカノジョだった
先輩は唐突に言った
 「お前の野球人生を台無しにしてしまった 本当に申し訳ない」
先輩は 20年前の妹の言動を知ったらしく 泣きながら詫びた

僕には どうでもいいことだった しかし・・・
不完全な思いが 心のどこかで燻っていた
 「お前の人生を狂わせておきながら 勝手な話だが
  こいつも人知れず悩んでいたらしい 
  お前が野球をやめたのは自分のせいだと・・・
  今でも こいつはお前のことが好きなんだ どうか許してほしい」
僕は驚いた カノジョが僕のことを想い続けていた・・・
あの時 僕はカノジョを憎もうとした 
何で! 何で! 何で!わかってくれないんだと!
しかし できないことは明らかだった 
だから カノジョのことを忘れることにした 生きがいだった野球とともに
僕の心の時計は 永久に凍りついた・・・ 
それが カノジョの涙で溶け始めた そして時計の歯車が再び起動した
 「僕とキャッチボールしてくれるかい?」
あの頃の僕が カノジョに言おうと用意していたプロポーズだった 

今 カノジョはJunの横で 僕を見ている あの夏の日の様に
大きく振りかぶった
最近のプロ野球は セットポジションが主流だが 
僕は天に手が届くほど 大きく手を伸ばす投法が好きだった
三角筋と大円筋が交互にキリキリと音をたてて軋む
あの頃と違って筋肉も多少オイル不足の様だ
右膝を あごの近くまで持ち上げた瞬間 体をめい一杯ひねる
この瞬間 僕の世界は 18.44m先のミットだけが存在する
昔感じた Worldに入った
刹那 体中の血液が沸騰し 左手に握られたボールは 
僕の中に溜まった 20年間の思いを爆発させて 一気にミットめがけて放たれた


”ZZudooooooooooooooooooooooooooooNNNNNNNNN”

右口元を釣り上げることが癖の選手は 
その瞬間何が起きたのかわからなかった 手にしたバットピクリとも動くことはなかった 
キャッチャーはあまりの球威にミットを顔面にぶつけて倒れた
・・・グラウンドが サイレントmovieに変わった・・・

帰り道 バックミラーには寝息をたてているJunが見える
僕は Ct200hをパワーモードに切り替える
メータは エコモードからタコメーターにシフトした
優しさの中に強烈な個性を持つ ワンダーボーイのようなコイツを運転しながら想った
・・・8月9日(野球の日) 
ロイ・ハブス(Robert Redford)のように 父親として 息子に夢を与えることができた
明日から 思う存分キャッチボールができる・・・

助手席からカノジョが言った
 「かっこよかったわ・・・でも どうして球団のオファーを断ったの」

 「あの一球は 20年前に投げるはずだった一球だよ・・・」
カノジョの髪をそっと撫でた時 遠くで稲妻がキラッと輝いた




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