インディ・ジョーンズと運命のダイヤル ~ イスズピアッツァネロハンドリングバイロータス1989 ~

もう一度
昔に戻ることができたら　どうする
運命のダイヤルを見た僕は
ピアッツァ・ネロのアクセルを踏みながら　湾岸を走る

ベイブリッジが開通した1989年
世はバブル絶頂期
当時　最後のインディジョーンズと言われた
最後の聖戦を見た僕は
大黒パーキングで　カノジョに告白した

聖杯とはいかないまでも　
なけなしの貯金をはたいて買った　
ティファニーのオープンハート

気持ちは　ヘンリージョーンズJRになっていた僕は
いきなり　結婚を申し込んだ
お付き合いの申し出を想像していたカノジョは　困惑した結果　
結婚は考えてないと一言・・・
僕は　超えてはならない一線を通過したエルザのように　奈落に落ちた・・・

その日以降
ピュアホワイトのピアッツァ・ネロの助手席に設定されていたリザーブは解除された

会社でカノジョとすれ違いながらも
僕は違う女性と結婚した
その2年後　カノジョは会社を辞めた
人気絶頂の職業　テレビマンとの結婚による寿退社だった

思い出の大黒パーキングは閉鎖されていた
あの日　
渡らずにUターンした　ベイブリッジを通過する
運転席の窓にには
30年前は淡いピンク色だったマリンタワーが　ゴールドに輝いてる
吸い込まれるように　
漆黒のピアッツァ・ネロは　マリンタワーの真下に向かった

5年前・・・　
30年間連れ添った妻からの一言
　
「いつになったら　私たち本当のパートナーになれるの」

僕は　この女性を30年もの間　苦しめてきたことに気付いた

結婚すべきではなかった・・・

早期退職制度を使って手に入れた　
退職金をすべて妻に渡し　僕は一人になった
明日をどう生きるか
途方に暮れていたとき　ロードサイドで見つけた
遠い昔手放した　ピアッツァ・ネロと同じグレード　
ハンドリング・バイ・ロータスの　エボニーブラックに出会い
車一つで　ふるさとに戻ると
今は　跡継ぎのいない農家に身を寄せ　住み込みで働いている

そんな　僕に手紙が届いた
辞めた会社からの　創業80年事業の一環で開かれるOB会の招待状
もう都会の地を踏むことは無いと思っていたが・・・

カノジョと出逢えるかもしれない・・・
ミイラと化していた自分に　まだ暖かい血の流れを感じた

カノジョも10年前に
離婚していたことを僕はOB会で知った

マリンタワーの足元に　ピアッツァ・ネロを停めると　山下公園に入る

「ホントはね・・・
　ベイブリッジを渡って　あの日　ここでキミにキスしようと思っていたんだ」

赤い靴の少女の像の前で　同じポーズをとる君・・・
30年の時を刻んだ　
しわだらけの左手を　カノジョに向けて差し出した

運命のダイヤルが　あったら・・・
　
あの日・・・
結婚ではなく・・・　
これからも　ずっとそばにいてほしい・・・
30年前の自分に　僕は　そうアドバイスしただろう

「これから　ずっと　そばにいてくれないかい」

赤い靴の像の前に立つカノジョは微笑み　
そっと目を瞑った

左手が　
カノジョの首に届きそうになった瞬間・・・　カノジョは　ふわりと　ゴールドに輝いた

OB会に　カノジョの姿はなかった
カノジョと親しかった　女性の同僚を見つけた僕は
カノジョが　2年前　がんで亡くなったことを聴いた

子供もなく・・・　
一人寂しく病院で・・・

そんなカノジョの最後の写真をもらった

痩せこけていたが
綺麗に　年を重ねたカノジョは　僕の想像通りの女性だった

！！・・・

その首には　ティファニーのオープンハートがあった

♪Long, Long, Ago - Patti Page♪

その日以来・・・　　
1989年式　
エボニーブラックのピアッツァ・ネロ　ハンドリング・バイ・ロータスの助手席は
永遠に　カノジョのための　専用席になった