ザ・フラッシュ ~ ダッジ　ナイトロ 2011 ~

Cafébar　Casablancaには　最新映画のポスターが設置される場所がある
マスターの気分で入れ替わるこの場所は
自分の好みの情報だけが　選別されて近寄ってくるこの時代に
新鮮な気付きをくれる　お気に入りの場所だ

しかし・・・
今日張り替えられた　このポスターは　僕の心と体を　大きく揺さぶった

The Flash・・・　
ニトロを点火したような爆速のヒーロー
深く考えることもなく　
アクションを楽しもうと思った僕に不意打ちを食らわせた　DCコミックスのヒーロー映画だ
昔に戻れるのなら　もう一度やり直したい　そんな　気持ちが　鎌首をもたげた

ハートブレイクした僕の心を修復してくれた女性が　目の前にいるというのに
また・・・　遠い記憶が蘇る

「あなたはいつも　私にばっかり　行き先を決めさせて！　私のために　考える時間を使わないのね」
遠い昔　僕の右隣にいた　カノジョの声が右耳から聴こえてきた

「なんで　あなたが勝手に行き先を決めてしまうの！　私にだって行きたいところがあるのに！」
別の時間軸で左隣りにいた　カノジョが左耳に呟いた

「サプライズで演出したかったんだろうけど・・・　私がこういうこと喜ぶと思う？」
一月前から準備したプランも　一言で吹き飛ばされた
カノジョへの思いは　すべて裏目の結果しか生まなかった

「いい加減にしろ！」
カノジョに　放った最初で最後の反撃
大きなため息をついて席をっ立った　　それが　僕の記憶するカノジョの最後の姿だった

だからこそ・・・
過去の失敗を活かして　新しい恋を　順調に育んできたのに！

ドライブの行き先は　2回は僕が提案して　3回目は相手の要望を聞いた
サプライズは　やめて相手の希望を優先した
山ほど受けた　ダメ出しの経験を駆使して　僕は人生をやり直していた

だからこそ　今日　僕は　目の前で瞳をうるわせている女性に　結婚指輪を渡すことができるんだ！

ようやく　僕は　前に進むことができる・・・　そう思ったのに　
目の前のに飾られた　バリー・アレン：Flash（Ezra Miller）が　微笑んだ

「それを渡すのは　私じゃないよね」
僕を　優しく見守ってくれていた女性は　涙を拭きながら　サヨナラと言った

ノンアルコールカクテル
「シンデレラ」　は　誰の手もつけられず　透明の世界に消えた

一人　ダッジ　ナイトロにもどり　カーステレオをONにする
ポケットから取り出した指輪を見つめる
リングの中央にあった小さなダイヤには　無数のパラレルワールドに住む自分がいた

エアコンも　つけていないのに　身体が　震えた　
Flashのように　
このまま　分子レベルまで振動して　消えてしまいたかった・・・

Con Con！

ボディを叩く音がした

！！

ナイトロの巨大なフロントフェンダーに　腰掛けた女性が　左手を差し出して座っていた
それは　海馬の奥底に眠っていた　笑顔のカノジョだった

僕は・・・
本当に求めていた　世界に　ようやく到達することができた

♪Closer　The Chainsmokers ft. Halsey♪