オズの魔法使 ~ トヨタ チェイサー2.5ツアラーV 2000 ~
19,2023 20:43
助手席側の窓が 夕陽でオレンジ色に輝いている
いつもより 大きく見えていた太陽も
急速に
地平線に吸い込まれていくのを見て ハンドルを握る手は少し汗ばんた
「いいけど 19:00には 帰ってきたいの」
カノジョとの 初デートは条件付きで始まった
ダークグリーンマイカの 1999年式 JZX100型
トヨタ・チェイサーのヘッドライトを撫でながら 快諾した
シリーズ最終モデル
1JZ-GTE 排気量2491cc 直列6気筒DOHCターボエンジン
最大出力280馬力のツアラーVに 遅刻はない
絶対的な 信頼関係をコイツとは築いている

むしろ課題は・・・ ドライバーの僕にある
今年32歳になる僕
当然これまでも 何人かの女性を 助手席に乗せてきた
ただ・・・
一人で走っているときは コイツ(チェイサー)と気ままに会話できるのに
助手席に女性を乗せた途端
僕のハートは 疑問符が増殖を始める
デートは うまくいくだろうか・・・
隣りのカノジョは 楽しめているだろうか・・・
沈黙が怖い・・・
目線を合わせるのが怖い・・・
そして 僕は 一つの解を導き出した
とにかく・・・
一方的に 話し続ければいい
話さえしていれば 増殖し続ける疑問符のことを忘れられる
しかし それには大きな課題があった・・・
車とアクション映画のことしか興味のない僕には
圧倒的に女性用の話のネタが不足していた
そこで ドライブの際には
綿密なプラン策定と 行き先の蘊蓄を暗記することにした
まるで はとバスのガイドさんのように
そんな僕に
スカイブルーのタートルネックのニットに黒のデニムと言う
過去に経験したことないほど
ラフないでたちで現れた君は
予約していた行列のできるレストランのランチを頬張りながら言った
「蘊蓄ばかり語ってないで 料理食べたら? 冷めちゃうよ」
これまでの女性は
僕の話を聞いて 微笑みながら 相槌を打ってくれたのに・・・
ドライブの最中に
カチンときたのは初めてだった
おかげで この店が
太平洋の切り立った絶壁の上にある理由の語りは 永遠に封印されてしまった
仕切り直して
今日のドライブプランを思い出す
次は 現代アート美術館だ
ステンドグラスの塔に関する蘊蓄を復習しながら
ハンドルを 山道に向けようとしたとき
あらっ・・・
カノジョの聲に導かれ
チェイサーのノーズは 案山子と ブリキ人形が置かれたロッジ風のCaféに向いた
「きっと 美味しいコーヒーに出会えるわ」
食事を終えたばかりだったが
冬山と段々畑が広がる風景と
サイフォーンで淹れた 本格的なコーヒーに・・・
シナモンの香りが 鼻孔をくすぐるアップルパイの相性は格別だった
予定外の行動も悪くはない・・・
ただ 少しずつ 僕のハートに 恐怖が蓄積され始めているのがわかる
想定外の場所で 何を話せばいいんだ 何も浮かばない・・・
ただ ひたすら コーヒーが おいしいという単語を
様々な語彙変換して 生産するしかなかった
うまい・・・ サイコー・・・ くー 美味しい・・・ やっぱりおいしい・・・
美味!・・・ 苦みがいいね・・・ ナイス! 素晴らしい・・・ デリーシャス と言った感じ・・・
しかし・・・ もう弾は残っていない そう思ったとき カノジョが 笑った
「次は ボーノかしら それともビエン?」
再び カチンときた・・・
最悪は重なる・・・
チェイサーに 戻ろうとした僕らに
店で流れていた コミュニティFMが語り始めた
”高速道路で多重衝突事故が発生しています 上り線は通行止めになっているのでお気を付けください”
仕方なく 僕らは ドライブの工程を半分を残して 帰路についた
幸い まだお披露目していないドライブ中の蘊蓄ストックは
山ほど残っている
一般道を走ることになり
Vテック エンジンの能力を 見せる場は減ってしまったけど
車内は 僕のトークが支配していた
そんなときカノジョが 最後の爆弾を投下した・・・
「ちょっと 眠たくなっちゃった・・・」
大きく背伸びをすると 助手席の窓のほうを向いてしまった
あぁ・・・ やっぱりそうだよね・・・
バックミラーに写った 8月生まれの僕は 臆病なライオン・・・ジークそのものだった
過去経験したドライブの記憶が過る・・・
僕の蘊蓄を
みんな最後まで笑顔で 楽しく聞いてくれた それでも・・・
毎回 二度目は なかった
今日のカノジョは 半日さえ もたなかった・・・
眠い・・・ 君は言った
そう 僕は まったく つまらない奴なんだ・・・
カーステレオをオフにした車内は
Vテックエンジンと マフラーの排気音だけが響いていた
夕陽が完全に地平線に飲み込まれた時
ようやく解放された高速道路に入った1JZ-GTEエンジンは
威勢よく唸り声をあげ
ぎりぎりだったが 約束通り 19:00にカノジョの家に到着した
♪Judy Garland Somewhere Over The Rainbow♪
これで 君とも 永遠に さよならだ そう思った そのとき・・・・
「ちょっと待ってて・・・」
家に入ったカノジョは 一分もしないうちに戻ってきた
四角い緑色の小さな箱を持って
「少し 遅くなったけど・・・生チョコです!
19:00に合わせて解凍してたから ちゃんと戻れてよかった」
あぁ・・・バレンタインか・・・
義理チョコでもうれしいよ 自虐的なイメージに支配されてりる僕に
「今日は 楽しかったよ
あなたの話していた この車のエンジン音・・・ 確かに 気持ちよかったわ」
えっ・・・
寝てなかったんだ・・・
世界中で 僕だけが時の概念を奪われ
ブロンズ像のように固まっていると
「次も ゆっくり聴かせてね」
カノジョは背伸びして 僕の耳元で囁いた
君となら・・・
沈黙も また会話になる そう思えた時
僕は勇気を手に入れた
チェイサーのヘッドライトが 二人を覆うように 虹の橋を架けていた
いつもより 大きく見えていた太陽も
急速に
地平線に吸い込まれていくのを見て ハンドルを握る手は少し汗ばんた
「いいけど 19:00には 帰ってきたいの」
カノジョとの 初デートは条件付きで始まった
ダークグリーンマイカの 1999年式 JZX100型
トヨタ・チェイサーのヘッドライトを撫でながら 快諾した
シリーズ最終モデル
1JZ-GTE 排気量2491cc 直列6気筒DOHCターボエンジン
最大出力280馬力のツアラーVに 遅刻はない
絶対的な 信頼関係をコイツとは築いている

むしろ課題は・・・ ドライバーの僕にある
今年32歳になる僕
当然これまでも 何人かの女性を 助手席に乗せてきた
ただ・・・
一人で走っているときは コイツ(チェイサー)と気ままに会話できるのに
助手席に女性を乗せた途端
僕のハートは 疑問符が増殖を始める
デートは うまくいくだろうか・・・
隣りのカノジョは 楽しめているだろうか・・・
沈黙が怖い・・・
目線を合わせるのが怖い・・・
そして 僕は 一つの解を導き出した
とにかく・・・
一方的に 話し続ければいい
話さえしていれば 増殖し続ける疑問符のことを忘れられる
しかし それには大きな課題があった・・・
車とアクション映画のことしか興味のない僕には
圧倒的に女性用の話のネタが不足していた
そこで ドライブの際には
綿密なプラン策定と 行き先の蘊蓄を暗記することにした
まるで はとバスのガイドさんのように
そんな僕に
スカイブルーのタートルネックのニットに黒のデニムと言う
過去に経験したことないほど
ラフないでたちで現れた君は
予約していた行列のできるレストランのランチを頬張りながら言った
「蘊蓄ばかり語ってないで 料理食べたら? 冷めちゃうよ」
これまでの女性は
僕の話を聞いて 微笑みながら 相槌を打ってくれたのに・・・
ドライブの最中に
カチンときたのは初めてだった
おかげで この店が
太平洋の切り立った絶壁の上にある理由の語りは 永遠に封印されてしまった
仕切り直して
今日のドライブプランを思い出す
次は 現代アート美術館だ
ステンドグラスの塔に関する蘊蓄を復習しながら
ハンドルを 山道に向けようとしたとき
あらっ・・・
カノジョの聲に導かれ
チェイサーのノーズは 案山子と ブリキ人形が置かれたロッジ風のCaféに向いた
「きっと 美味しいコーヒーに出会えるわ」
食事を終えたばかりだったが
冬山と段々畑が広がる風景と
サイフォーンで淹れた 本格的なコーヒーに・・・
シナモンの香りが 鼻孔をくすぐるアップルパイの相性は格別だった
予定外の行動も悪くはない・・・
ただ 少しずつ 僕のハートに 恐怖が蓄積され始めているのがわかる
想定外の場所で 何を話せばいいんだ 何も浮かばない・・・
ただ ひたすら コーヒーが おいしいという単語を
様々な語彙変換して 生産するしかなかった
うまい・・・ サイコー・・・ くー 美味しい・・・ やっぱりおいしい・・・
美味!・・・ 苦みがいいね・・・ ナイス! 素晴らしい・・・ デリーシャス と言った感じ・・・
しかし・・・ もう弾は残っていない そう思ったとき カノジョが 笑った
「次は ボーノかしら それともビエン?」
再び カチンときた・・・
最悪は重なる・・・
チェイサーに 戻ろうとした僕らに
店で流れていた コミュニティFMが語り始めた
”高速道路で多重衝突事故が発生しています 上り線は通行止めになっているのでお気を付けください”
仕方なく 僕らは ドライブの工程を半分を残して 帰路についた
幸い まだお披露目していないドライブ中の蘊蓄ストックは
山ほど残っている
一般道を走ることになり
Vテック エンジンの能力を 見せる場は減ってしまったけど
車内は 僕のトークが支配していた
そんなときカノジョが 最後の爆弾を投下した・・・
「ちょっと 眠たくなっちゃった・・・」
大きく背伸びをすると 助手席の窓のほうを向いてしまった
あぁ・・・ やっぱりそうだよね・・・
バックミラーに写った 8月生まれの僕は 臆病なライオン・・・ジークそのものだった
過去経験したドライブの記憶が過る・・・
僕の蘊蓄を
みんな最後まで笑顔で 楽しく聞いてくれた それでも・・・
毎回 二度目は なかった
今日のカノジョは 半日さえ もたなかった・・・
眠い・・・ 君は言った
そう 僕は まったく つまらない奴なんだ・・・
カーステレオをオフにした車内は
Vテックエンジンと マフラーの排気音だけが響いていた
夕陽が完全に地平線に飲み込まれた時
ようやく解放された高速道路に入った1JZ-GTEエンジンは
威勢よく唸り声をあげ
ぎりぎりだったが 約束通り 19:00にカノジョの家に到着した
♪Judy Garland Somewhere Over The Rainbow♪
これで 君とも 永遠に さよならだ そう思った そのとき・・・・
「ちょっと待ってて・・・」
家に入ったカノジョは 一分もしないうちに戻ってきた
四角い緑色の小さな箱を持って
「少し 遅くなったけど・・・生チョコです!
19:00に合わせて解凍してたから ちゃんと戻れてよかった」
あぁ・・・バレンタインか・・・
義理チョコでもうれしいよ 自虐的なイメージに支配されてりる僕に
「今日は 楽しかったよ
あなたの話していた この車のエンジン音・・・ 確かに 気持ちよかったわ」
えっ・・・
寝てなかったんだ・・・
世界中で 僕だけが時の概念を奪われ
ブロンズ像のように固まっていると
「次も ゆっくり聴かせてね」
カノジョは背伸びして 僕の耳元で囁いた
君となら・・・
沈黙も また会話になる そう思えた時
僕は勇気を手に入れた
チェイサーのヘッドライトが 二人を覆うように 虹の橋を架けていた
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