グラン・ブルー ~ ランチア ベータクーペ 1982~
22,2023 23:23
「お客様・・・」
振り返ると 監視員の女性がいた
肩に届く赤茶色の髪が カノジョのプール愛を示している
「なにか・・・」
パンデミックも収束し
取引先との宴会も増え始めた結果 少しお腹の成長が気になりだした僕は
夏の終わりごろから 日曜の昼と 水曜日の夜 プールに通っている
ルーティーンは クロール300m 平泳ぎ300m 歩行300m・・・
40を過ぎると 若いころのようにはいかない
ランニングは 足に負担がかかるから
学生時代の部活を思い出して プールを選択した
最近の市民プールは
民間顔負けの最新設備が整っている
外は極寒でも
心地よい太陽光を感じる ガラスの外壁が 常に常夏の空間を保持している
泳いでいる人のフャッションだけ目を瞑れば
地中海リゾートのような空間だ
それでも
歳を考えて プールサイドで
しっかりストレッチに 時間をかけることは 忘れない
それなのに・・・
つま先に触れたH2oの感触が 身体全体に伝播しはじめようとした 刹那・・・
赤茶色の髪の天使が 僕を止めた
「ちょっと・・・ それでは プールには入れません」
ドライブ中に 後方で
赤色灯が灯されたような緊張感が 僕を包み込んだ
「準備運動しっかりしましたよ・・・ 帽子もこの通り かぶってますけど・・・」
白バイから 一時停止違反を 咎められたときのように
正当性を 主張する僕に
ラテン系の笑顔で
首を振りながらカノジョは 自分の口元を指さした
口紅の塗られてない 天然の薄紅梅のくちびるに どきりとした瞬間・・・
「あっ・・・」
マスクを したままだった・・・
「あっ・・・ありがとう・・・」
頭をかく僕に
「ホントに 困っちゃいますよね・・・
いつの間にか マスクが気にならなくなってしまって・・・ わたしも 2回ほど やっちゃいましたよ」
その日から
僕のルーティーンは クロール300m 平泳ぎ300m 歩行400m(カノジョとの会話付)に変わった
時計を見ながら 歩いていた ウォーキングは
カノジョとの会話のおかげで 距離は伸びたのに
体感時間は半分になった
カノジョの趣味はダイビングで 夢は イルカと一緒に泳いで 世界の海を制覇することだった
好きな映画はグランブルー
僕と同じだった
「いつか マスクのお礼に 御馳走するよ」
会話のエンディングは いつもそう締めくくっていた
「楽しみにしていま~す」
南プロバンスの風を感じさせる笑顔に癒される毎日だったが
カノジョのワークタイムと 僕のそれとは そもそも接点が見当たらない
それに・・・
親子ほど離れた歳の差が カノジョの負担になることを・・・
いや・・・
バランスの取れた今の関係から 一歩踏み込んだ途端・・・
この心地よい 関係が 水面に写った幻影である現実に戻ってしまうことを恐れていた

そうしている間に 半年が過ぎた
今日も いつものように
「いつか マスクの命を助けてくれたお礼をするよ」
そう言って
プールを出ようとしたとき
「今日で 私最後なんです・・・ 」
カノジョが言った
えっ・・・
カノジョは 夢に向けて 地中海の街に 羽ばたくことを決めていた・・・
そこには カノジョの尊敬する先輩がいるらしい
「そうか・・・」
駐車場に停めていた ランチアベータのダッシュボードに
半年前から用意されていた カノジョのためのプレゼントを 開けた・・・
月明りで キラリと輝く
イルカのネックレスを バックミラーにかけた
翌週・・・
赤茶色の天使の指定席は
強烈な日焼け止めを持っているのだろう・・・ 真っ白な男性監視員になっていた
・・・
親子ほど離れたカノジョの笑顔を
思い出しながら
僕は 50mの潜水に挑んだ
グラン・ブルーのプールの底が そのまま地中海に続いているように見えた
「がんばれよ・・・」
♪Sam Smith - Palace♪
最近の市民プールは
民間顔負けの最新設備が整っている
外は真冬の夜でも 心地よい地中海の環境が維持されている
そんな プールの水面に プカリと マスクが 浮かんできた
振り返ると 監視員の女性がいた
肩に届く赤茶色の髪が カノジョのプール愛を示している
「なにか・・・」
パンデミックも収束し
取引先との宴会も増え始めた結果 少しお腹の成長が気になりだした僕は
夏の終わりごろから 日曜の昼と 水曜日の夜 プールに通っている
ルーティーンは クロール300m 平泳ぎ300m 歩行300m・・・
40を過ぎると 若いころのようにはいかない
ランニングは 足に負担がかかるから
学生時代の部活を思い出して プールを選択した
最近の市民プールは
民間顔負けの最新設備が整っている
外は極寒でも
心地よい太陽光を感じる ガラスの外壁が 常に常夏の空間を保持している
泳いでいる人のフャッションだけ目を瞑れば
地中海リゾートのような空間だ
それでも
歳を考えて プールサイドで
しっかりストレッチに 時間をかけることは 忘れない
それなのに・・・
つま先に触れたH2oの感触が 身体全体に伝播しはじめようとした 刹那・・・
赤茶色の髪の天使が 僕を止めた
「ちょっと・・・ それでは プールには入れません」
ドライブ中に 後方で
赤色灯が灯されたような緊張感が 僕を包み込んだ
「準備運動しっかりしましたよ・・・ 帽子もこの通り かぶってますけど・・・」
白バイから 一時停止違反を 咎められたときのように
正当性を 主張する僕に
ラテン系の笑顔で
首を振りながらカノジョは 自分の口元を指さした
口紅の塗られてない 天然の薄紅梅のくちびるに どきりとした瞬間・・・
「あっ・・・」
マスクを したままだった・・・
「あっ・・・ありがとう・・・」
頭をかく僕に
「ホントに 困っちゃいますよね・・・
いつの間にか マスクが気にならなくなってしまって・・・ わたしも 2回ほど やっちゃいましたよ」
その日から
僕のルーティーンは クロール300m 平泳ぎ300m 歩行400m(カノジョとの会話付)に変わった
時計を見ながら 歩いていた ウォーキングは
カノジョとの会話のおかげで 距離は伸びたのに
体感時間は半分になった
カノジョの趣味はダイビングで 夢は イルカと一緒に泳いで 世界の海を制覇することだった
好きな映画はグランブルー
僕と同じだった
「いつか マスクのお礼に 御馳走するよ」
会話のエンディングは いつもそう締めくくっていた
「楽しみにしていま~す」
南プロバンスの風を感じさせる笑顔に癒される毎日だったが
カノジョのワークタイムと 僕のそれとは そもそも接点が見当たらない
それに・・・
親子ほど離れた歳の差が カノジョの負担になることを・・・
いや・・・
バランスの取れた今の関係から 一歩踏み込んだ途端・・・
この心地よい 関係が 水面に写った幻影である現実に戻ってしまうことを恐れていた

そうしている間に 半年が過ぎた
今日も いつものように
「いつか マスクの命を助けてくれたお礼をするよ」
そう言って
プールを出ようとしたとき
「今日で 私最後なんです・・・ 」
カノジョが言った
えっ・・・
カノジョは 夢に向けて 地中海の街に 羽ばたくことを決めていた・・・
そこには カノジョの尊敬する先輩がいるらしい
「そうか・・・」
駐車場に停めていた ランチアベータのダッシュボードに
半年前から用意されていた カノジョのためのプレゼントを 開けた・・・
月明りで キラリと輝く
イルカのネックレスを バックミラーにかけた
翌週・・・
赤茶色の天使の指定席は
強烈な日焼け止めを持っているのだろう・・・ 真っ白な男性監視員になっていた
・・・
親子ほど離れたカノジョの笑顔を
思い出しながら
僕は 50mの潜水に挑んだ
グラン・ブルーのプールの底が そのまま地中海に続いているように見えた
「がんばれよ・・・」
♪Sam Smith - Palace♪
最近の市民プールは
民間顔負けの最新設備が整っている
外は真冬の夜でも 心地よい地中海の環境が維持されている
そんな プールの水面に プカリと マスクが 浮かんできた
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