ユー・ガット・メール ~ ロールスロイス カリナン 2019 ~
01,2022 18:58
「久しぶりに 本格的なゴールデンウィークね!」
「ホント あちこちで 大渋滞らしい
おかげで こっちは 人っ子一人いないけど」
僕は 缶ビールをぐいと空けながら言った
ウィルスが世界を席巻してから 三度目のゴールデンウィーク
今年は 緊急事態宣言もなく
多くの人が 外に出ている
そんな中でも 僕は相変わらず
VRゲーム「Gun & driver」の世界にいた
いつもの5人で
最難関のクエストに挑む
それが僕のゴールデンウィーク・・・ のはずだった
しかし 今 ここにいるのは
ハンドルネーム”North Maria”と 僕だけ・・・
どうやら 他の仲間たちは
ゲームのヴィランより
強敵な リアルファミリーに屈してしまったようだ
「さすがに 二人じゃ 制覇は難しいな」
2本目のビールを飲みながら これからのことを考える僕に
「ちょっと いいかな・・・」
North Mariaが 話しかけてきた
前回のクエスト報酬で手に入れた
ロールスロイス初のSUV カリナン
現実世界では
パンフレットさえ 手にすることが困難な超高級車が
僕らのパーティの移動アイテムだった
「この世界に
リアルを持ち込まないのが 私たちのルールだけど・・・
私は もう ここに来ることができなくなるの・・・
だから・・・
一度 リアルで会えないかな・・・」
「・・・」

僕とカノジョは このゲームの最古参に属している
どちらから 声をかけたか もう覚えていないが
いつの間にか お互いの背中を預ける相棒になっていた
だからこそ カノジョの言葉が 本物であることは すぐに理解できた
でも・・・
リアルは バーチャルを壊してまう・・・
映画 ユー・ガット・メールのような ストーリーは
トムハンクスと メグライアンのような
容姿端麗なカップルだからこそ 成り立つんだ
ハンドルネーム”Lefty Alone”の僕が
ソロプレイにこだわってきたのは 苦い経験があったからだ
仕事も家庭も崩壊している 今の僕に
バーチャルワールドまで取り上げられたら もう生き甲斐が見当たらない・・・
Lefty Aloneの フリーズ状態を見たNorth Maria
「ごめん・・・ ルール違反だね 撤回する・・・」
”撤回”という言葉が
カノジョを 途方もなく遠い世界に転移させてしまう
詠唱のように聴こえた
「いいよ 会おう!
君とのチームが終ってしまうなら
このゲームに 参加し続ける意味はない・・・」
僕は自分の醜さを知っている
現実逃避を続け 適当に嘘で体裁を装ってきた ダメ人間
自分自身が 自分のことを 一番嫌っている・・・
性格だけではない・・・
ブサイクで 金も筋肉もない 勇気もなければ 髪も薄い
背だけはちょぴり高いけど 体重も あわせて立派な数字だ
そんな僕が
リアルでカノジョと出会うことは 僕に メリットは何もない
それでも・・・
Lefty Aloneを ずっと支えてくれたパートナーに報いるのは今しかない・・・
カノジョが指定していきた喫茶店は
幸運にも
僕の家から10kmも離れていない場所だった
翌日・・・
愛車 カリナン(リアル世界ではパッソという)のナビが
目的地として 指定した場所は
大学病院だった
病院の中にある喫茶店には
早い時間帯だったためか
車いすの女性が一人いるだけだった
「North Mariaですか・・・」
僕の声は カノジョを 通過し
目線の先にある 新緑の銀杏とピンク色のツツジに ぶつかった・・・
周りを気にしながら 少し大きな声で もう一度・・・
と思ったとき
背後から現れた看護士が
カノジョの肩を叩いた
こちらを向いたカノジョは・・・
North Maria そのものだった
僕は 改めて ここに来たことを後悔した
カノジョは タブレットで会話を始めた
『Lefty Alone さん ですか・・・』
カノジョは
耳が聞こえない そして言葉も話せない
看護士は タブレットで意思疎通ができます
と言うと フェードアウトした
『いいえ 彼の友人です
彼は 急な仕事が入ってしまい 来れなくなりました』
いつものように 僕は嘘をついた
Sub Urban - Cradles
カノジョは
にこりと微笑んで 指を動かす
『そうですか・・・ 残念です・・・
でも・・・ せっかくなので 少し話し相手になっていただけますか』
カノジョは
僕の返事を聞く前に
タブレットに 淡々と文字をつづり始めた・・・
『バーチャル世界は
私を障碍者から解放してくれました
仲間と一緒に生活ができる
こんな素敵な場所は無い!
いつしか 私のリアルはバーチャル世界なんだと思うようになりました
でも・・・
私を費用的にも 精神的にも支えてくれた
母が亡くなりました・・・
まもなく 私は もうバーチャル世界に行くことはできません
だから・・・
最後に Lefty Aloneさんに 直接会いたかった
バーチャル世界を一緒に過ごした 伴侶として・・・』
”こちらこそ どれだけ君に助けられたか!”
そう カノジョに伝えたかった
しかし・・・
今の僕は Lefty Aloneではない
「君たちは 最高のカップルだったんですね」
僕は 精一杯の嘘を続けた
『えぇ・・・ だからこそ 別れるのは つらいです・・・
きっと 彼も私と同じ気持ちだと思います
だから・・・
私の現実の姿・・・障碍者だということを 打ち明ければ
彼の心は 少しだけ 穏やかに 別れを受け入れられると思ったんです』
「そんなことはない・・・リアルで・・・」
リアルを見れば 嫌われるのは むしろ僕の方だ
そう言いかけて僕は 慌てて 言い直した
「リアルで・・・ いや・・・ リアルにだって 賢者の石はあるはずだ」
病気治療・不老不死の効果がある賢者の石は
二人が初めて組んだクエストで
手に入れた思い出のアイテムだった
カノジョは 僕を直視して・・・ もう一度 にこりと笑った
そして・・・
タブレットではなく・・・ 必死に 声を出した
「A R I G A T O U」
いたたまれなくなった僕は
頭を下げて 席を立った・・・
もう二度と 会うことはないのだろう・・・
Gyuu !
カノジョが 僕の袖を引っ張った
『リアルなカリナンの中なら
運転席の君と私の距離は かなり近いわね』
タブレットに書かれた
North Mariaらしい 皮肉が書かれていた
僕は 思わず 噴き出した
リアルカリナン(パッソ)から 降りた僕を
カノジョは ずっと 窓から見ていた・・・
「Gun & driver」随一の観察眼
North Mariaの
瞳はごまかせない・・・
『「あなたにとって 私はお荷物ですか それとも賢者の石ですか』
僕は 賢者の石 と書かれたタブレットを指さした
そして・・・
タブレットに書かれた文字を 一部訂正してカノジョに渡した
『君にとって 僕はお荷物ですか それとも賢者の石ですか』
カノジョは 僕の左手にKissで答えた
自分の容姿も忘れて 僕は Lefty Aloneの口癖を発した
「アレルヤ!」
その日 僕たちのバーチャルワールドは リアルを駆逐した
「ホント あちこちで 大渋滞らしい
おかげで こっちは 人っ子一人いないけど」
僕は 缶ビールをぐいと空けながら言った
ウィルスが世界を席巻してから 三度目のゴールデンウィーク
今年は 緊急事態宣言もなく
多くの人が 外に出ている
そんな中でも 僕は相変わらず
VRゲーム「Gun & driver」の世界にいた
いつもの5人で
最難関のクエストに挑む
それが僕のゴールデンウィーク・・・ のはずだった
しかし 今 ここにいるのは
ハンドルネーム”North Maria”と 僕だけ・・・
どうやら 他の仲間たちは
ゲームのヴィランより
強敵な リアルファミリーに屈してしまったようだ
「さすがに 二人じゃ 制覇は難しいな」
2本目のビールを飲みながら これからのことを考える僕に
「ちょっと いいかな・・・」
North Mariaが 話しかけてきた
前回のクエスト報酬で手に入れた
ロールスロイス初のSUV カリナン
現実世界では
パンフレットさえ 手にすることが困難な超高級車が
僕らのパーティの移動アイテムだった
「この世界に
リアルを持ち込まないのが 私たちのルールだけど・・・
私は もう ここに来ることができなくなるの・・・
だから・・・
一度 リアルで会えないかな・・・」
「・・・」

僕とカノジョは このゲームの最古参に属している
どちらから 声をかけたか もう覚えていないが
いつの間にか お互いの背中を預ける相棒になっていた
だからこそ カノジョの言葉が 本物であることは すぐに理解できた
でも・・・
リアルは バーチャルを壊してまう・・・
映画 ユー・ガット・メールのような ストーリーは
トムハンクスと メグライアンのような
容姿端麗なカップルだからこそ 成り立つんだ
ハンドルネーム”Lefty Alone”の僕が
ソロプレイにこだわってきたのは 苦い経験があったからだ
仕事も家庭も崩壊している 今の僕に
バーチャルワールドまで取り上げられたら もう生き甲斐が見当たらない・・・
Lefty Aloneの フリーズ状態を見たNorth Maria
「ごめん・・・ ルール違反だね 撤回する・・・」
”撤回”という言葉が
カノジョを 途方もなく遠い世界に転移させてしまう
詠唱のように聴こえた
「いいよ 会おう!
君とのチームが終ってしまうなら
このゲームに 参加し続ける意味はない・・・」
僕は自分の醜さを知っている
現実逃避を続け 適当に嘘で体裁を装ってきた ダメ人間
自分自身が 自分のことを 一番嫌っている・・・
性格だけではない・・・
ブサイクで 金も筋肉もない 勇気もなければ 髪も薄い
背だけはちょぴり高いけど 体重も あわせて立派な数字だ
そんな僕が
リアルでカノジョと出会うことは 僕に メリットは何もない
それでも・・・
Lefty Aloneを ずっと支えてくれたパートナーに報いるのは今しかない・・・
カノジョが指定していきた喫茶店は
幸運にも
僕の家から10kmも離れていない場所だった
翌日・・・
愛車 カリナン(リアル世界ではパッソという)のナビが
目的地として 指定した場所は
大学病院だった
病院の中にある喫茶店には
早い時間帯だったためか
車いすの女性が一人いるだけだった
「North Mariaですか・・・」
僕の声は カノジョを 通過し
目線の先にある 新緑の銀杏とピンク色のツツジに ぶつかった・・・
周りを気にしながら 少し大きな声で もう一度・・・
と思ったとき
背後から現れた看護士が
カノジョの肩を叩いた
こちらを向いたカノジョは・・・
North Maria そのものだった
僕は 改めて ここに来たことを後悔した
カノジョは タブレットで会話を始めた
『Lefty Alone さん ですか・・・』
カノジョは
耳が聞こえない そして言葉も話せない
看護士は タブレットで意思疎通ができます
と言うと フェードアウトした
『いいえ 彼の友人です
彼は 急な仕事が入ってしまい 来れなくなりました』
いつものように 僕は嘘をついた
Sub Urban - Cradles
カノジョは
にこりと微笑んで 指を動かす
『そうですか・・・ 残念です・・・
でも・・・ せっかくなので 少し話し相手になっていただけますか』
カノジョは
僕の返事を聞く前に
タブレットに 淡々と文字をつづり始めた・・・
『バーチャル世界は
私を障碍者から解放してくれました
仲間と一緒に生活ができる
こんな素敵な場所は無い!
いつしか 私のリアルはバーチャル世界なんだと思うようになりました
でも・・・
私を費用的にも 精神的にも支えてくれた
母が亡くなりました・・・
まもなく 私は もうバーチャル世界に行くことはできません
だから・・・
最後に Lefty Aloneさんに 直接会いたかった
バーチャル世界を一緒に過ごした 伴侶として・・・』
”こちらこそ どれだけ君に助けられたか!”
そう カノジョに伝えたかった
しかし・・・
今の僕は Lefty Aloneではない
「君たちは 最高のカップルだったんですね」
僕は 精一杯の嘘を続けた
『えぇ・・・ だからこそ 別れるのは つらいです・・・
きっと 彼も私と同じ気持ちだと思います
だから・・・
私の現実の姿・・・障碍者だということを 打ち明ければ
彼の心は 少しだけ 穏やかに 別れを受け入れられると思ったんです』
「そんなことはない・・・リアルで・・・」
リアルを見れば 嫌われるのは むしろ僕の方だ
そう言いかけて僕は 慌てて 言い直した
「リアルで・・・ いや・・・ リアルにだって 賢者の石はあるはずだ」
病気治療・不老不死の効果がある賢者の石は
二人が初めて組んだクエストで
手に入れた思い出のアイテムだった
カノジョは 僕を直視して・・・ もう一度 にこりと笑った
そして・・・
タブレットではなく・・・ 必死に 声を出した
「A R I G A T O U」
いたたまれなくなった僕は
頭を下げて 席を立った・・・
もう二度と 会うことはないのだろう・・・
Gyuu !
カノジョが 僕の袖を引っ張った
『リアルなカリナンの中なら
運転席の君と私の距離は かなり近いわね』
タブレットに書かれた
North Mariaらしい 皮肉が書かれていた
僕は 思わず 噴き出した
リアルカリナン(パッソ)から 降りた僕を
カノジョは ずっと 窓から見ていた・・・
「Gun & driver」随一の観察眼
North Mariaの
瞳はごまかせない・・・
『「あなたにとって 私はお荷物ですか それとも賢者の石ですか』
僕は 賢者の石 と書かれたタブレットを指さした
そして・・・
タブレットに書かれた文字を 一部訂正してカノジョに渡した
『君にとって 僕はお荷物ですか それとも賢者の石ですか』
カノジョは 僕の左手にKissで答えた
自分の容姿も忘れて 僕は Lefty Aloneの口癖を発した
「アレルヤ!」
その日 僕たちのバーチャルワールドは リアルを駆逐した
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