ホームアローン ~ キャデラック エルドラド 1967 ~
26,2021 14:31
僕の仕事は
老人ホームの依頼で お年寄りをドライブに連れていくこと
職員の皆さんは
僕のことをドライブさんと呼んだ
「ドライブさん
今日は 83歳の紳士です 海が見たいそうですよ よろしくね」
看護師の彼女は
いつものように モナリザのほほえみで
パートナーの情報を僕に伝えた
1967製 エルドラドの助手席に乗るお客様を
僕はパートナーと呼んでいる
その日のルートは
二人の共同作業で作られるものだから
しかし
今日のパートナーは 橋が見たい と言ったきり
フリーズしてしまった
エルドラドの全幅2030ｍｍは
僕と老紳士の間に太平洋を作ったようだ
3年も続けていれば 同じような経験は何度もしてきた
そんなときはと・・・
僕は 老紳士の横顔を見ながら
彼のヒストリーを想像して 今日のルートを決めた
不純物のない 快晴の冬空に
一直線にひかれた飛行機雲をナビゲーションに
都会を出たエルドラドは 南へ向かった
BGMを変え
趣味の話や 昔話を問うても 老紳士は何も語らず
モナリザさんが用意した
コーヒーとサンドウィッチを
時折 口にしながら 湾岸の景色を眺めていた
このまま 意思疎通がなくても
彼が 何かを感じてくれるなら それでいい
ドライブ屋の信条を
思い出していた僕の耳に 老紳士の声が 聴こえてきた
「お～ ゴールデンゲートだ」
正面に見えたのは
真っ白な斜張橋のベイブリッジ
吊り橋のゴールデンゲートブリッジとは 形も色も全く違うのに・・・
Ocean Colour Scene - Golden Gate Bridge
彼と同じ反応をした人を 僕は知っている
「大叔母も この橋を見て
ゴールデンゲートだ・・・と言ってました
そして 最後に サンフランシスコに 行きたかったなと・・・」
いつの間にか 老紳士は 僕のほうを見ていた
「三年前に 亡くなりました」
老紳士の反応に 気付かぬふりをしながら僕は 語った・・・
生涯独身だった大叔母の部屋には
ゴールデンゲートブリッジのジクソーパズルが壁にかかっていました
あぁ だから 橋を見るとゴールデンゲートかと 思ったのです
認知症が進行していた大叔母を
僕は 頻繁にドライブに連れて行きました
そして 大好きなこの橋を 一緒に見ました
そんな時 大叔母は 運転席の僕のことを
ショウさんと呼びました
ちなみに僕の名前は Kenjiです
「ショウさん ごめんね」
大叔母は 帰り路 いつもそう言ってました
ホームが見えた
モナリザさんが 手を振っている
「今日一日 ありがとうございました」
老紳士に そう告げた僕に
彼は ゆっくりと 語りかけてきた
「きっと 二人は 怖かったんだよ
ケンカした二人は
これ以上 相手に嫌われることが怖かった
怖くて・・・ 怖くて・・・
それなら いっそ 塩漬けにしてしまえばいいと
だから 彼は カノジョの前から消えたんだよ」
僕の 頭上に架空のスクリーンが浮かび
映画 ホームアローンが流れた
「どうして 電話で相手の気持ちを確かめなかったの
結果として 辛いことになるかもしれないけど
ずっと悩み続けるより いいと思わなかったのかな」
ケビン（Macaulay Culkin）が憑依されたように 僕は言った
長い長い・・・
エルドラドの全長5613ｍｍよりもはるかに長い沈黙の後・・・
「そうだね・・・ ・・・ ・・・
君は Chizuさんと同じ瞳をしているね」
モナリザさんが 助手席の扉を開け
老紳士に話しかけてきた
「昭三さん 楽しかったですか・・・」
再び無口に戻った老紳士が降りた後・・・
助手席には
ジクソーパズルのワンピースが落ちていた
大叔母の形見としてもらった
ゴールデンゲートブリッジのジグソーパズルには
１つだけ馴染んでいない箇所がある
無くしてしまったワンピースは 自分で作ったと大叔母は言っていた
クリスマスの夜・・・
50年ぶりに
完成したゴールデンゲートブリッジは
和解の電話がつながったように
いつもより 暖かい赤色に輝いていた
老人ホームの依頼で お年寄りをドライブに連れていくこと
職員の皆さんは
僕のことをドライブさんと呼んだ
「ドライブさん
今日は 83歳の紳士です 海が見たいそうですよ よろしくね」
看護師の彼女は
いつものように モナリザのほほえみで
パートナーの情報を僕に伝えた
1967製 エルドラドの助手席に乗るお客様を
僕はパートナーと呼んでいる
その日のルートは
二人の共同作業で作られるものだから
しかし
今日のパートナーは 橋が見たい と言ったきり
フリーズしてしまった
エルドラドの全幅2030ｍｍは
僕と老紳士の間に太平洋を作ったようだ
3年も続けていれば 同じような経験は何度もしてきた
そんなときはと・・・
僕は 老紳士の横顔を見ながら
彼のヒストリーを想像して 今日のルートを決めた
不純物のない 快晴の冬空に
一直線にひかれた飛行機雲をナビゲーションに
都会を出たエルドラドは 南へ向かった
BGMを変え
趣味の話や 昔話を問うても 老紳士は何も語らず
モナリザさんが用意した
コーヒーとサンドウィッチを
時折 口にしながら 湾岸の景色を眺めていた
このまま 意思疎通がなくても
彼が 何かを感じてくれるなら それでいい
ドライブ屋の信条を
思い出していた僕の耳に 老紳士の声が 聴こえてきた
「お～ ゴールデンゲートだ」
正面に見えたのは
真っ白な斜張橋のベイブリッジ
吊り橋のゴールデンゲートブリッジとは 形も色も全く違うのに・・・
Ocean Colour Scene - Golden Gate Bridge
彼と同じ反応をした人を 僕は知っている
「大叔母も この橋を見て
ゴールデンゲートだ・・・と言ってました
そして 最後に サンフランシスコに 行きたかったなと・・・」
いつの間にか 老紳士は 僕のほうを見ていた
「三年前に 亡くなりました」
老紳士の反応に 気付かぬふりをしながら僕は 語った・・・
生涯独身だった大叔母の部屋には
ゴールデンゲートブリッジのジクソーパズルが壁にかかっていました
あぁ だから 橋を見るとゴールデンゲートかと 思ったのです
認知症が進行していた大叔母を
僕は 頻繁にドライブに連れて行きました
そして 大好きなこの橋を 一緒に見ました
そんな時 大叔母は 運転席の僕のことを
ショウさんと呼びました
ちなみに僕の名前は Kenjiです
「ショウさん ごめんね」
大叔母は 帰り路 いつもそう言ってました
ホームが見えた
モナリザさんが 手を振っている
「今日一日 ありがとうございました」
老紳士に そう告げた僕に
彼は ゆっくりと 語りかけてきた
「きっと 二人は 怖かったんだよ
ケンカした二人は
これ以上 相手に嫌われることが怖かった
怖くて・・・ 怖くて・・・
それなら いっそ 塩漬けにしてしまえばいいと
だから 彼は カノジョの前から消えたんだよ」
僕の 頭上に架空のスクリーンが浮かび
映画 ホームアローンが流れた
「どうして 電話で相手の気持ちを確かめなかったの
結果として 辛いことになるかもしれないけど
ずっと悩み続けるより いいと思わなかったのかな」
ケビン（Macaulay Culkin）が憑依されたように 僕は言った
長い長い・・・
エルドラドの全長5613ｍｍよりもはるかに長い沈黙の後・・・
「そうだね・・・ ・・・ ・・・
君は Chizuさんと同じ瞳をしているね」
モナリザさんが 助手席の扉を開け
老紳士に話しかけてきた
「昭三さん 楽しかったですか・・・」
再び無口に戻った老紳士が降りた後・・・
助手席には
ジクソーパズルのワンピースが落ちていた
大叔母の形見としてもらった
ゴールデンゲートブリッジのジグソーパズルには
１つだけ馴染んでいない箇所がある
無くしてしまったワンピースは 自分で作ったと大叔母は言っていた
クリスマスの夜・・・
50年ぶりに
完成したゴールデンゲートブリッジは
和解の電話がつながったように
いつもより 暖かい赤色に輝いていた
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