夢の継承 ~ Dodge Viper ~ Wanted ~
31,2012 23:59
高校3年生のとき 趣味で投稿したライトノベルが銀賞を受賞した
そのとき僕は 小説家になることが天命だと感じた
東北の片田舎から 小説家になることを夢見て上京しようとする僕を
必要に 引き留めたのは 母だった
デジタル化が加速する世相を無視して
先祖代々続く 専業農家の道を未来永劫 存続させていくことが
僕に課せられた使命なのだと 母は諭した
そんな母をやさしく嗜めたのは 父だった
「男は夢に生きるもんだ」
無口な父の 有無を言わせぬ雰囲気に
母は涙したが 僕の顔を見てそっと頷いた
田植えが終わった水無月のはじめ
水田に映り込んだ満月が 淋しそうに見つめる夜 僕は家を後にした
インターネットが普及し 地方と都会に情報格差がなくなったためか
都会の生活は 僕の想像エリア内だった
一月もたたぬうちに 気兼ねなく付き合える仲間もできた
伝統や風習にとらわれない世界は居心地がよかったが
唯一 僕の心を揺らすのは
あれだけ 大きな存在だった月明かりが ここでは 街の灯に追いやられ
とてもはかなく感じることだ
僕は 書店のアルバイトで生活費を稼ぎつつ 夜は睡眠を惜しんで執筆活動に勤しんだ
マイデスクには 初めての給与で買った 真っ赤なダッジバイパーが鎮座している
いつの日かスーパーカーに乗って凱旋するという 決意の結晶だ

半年間 一心不乱に書き上げた10作品を手に 僕は出版社を訪問した
もちろん銀賞を受賞した出版社だ
無菌室のような真っ白な応接室に通された僕の前に現れたのは
丸眼鏡にニット帽の無精ひげがうっすらと見える 長身の編集者だった
「レオン・・・殺し屋」という文字が頭をよぎった
無言のまま僕の差し出した原稿を さらっと流すように見た彼は ボソッと言った
「興味ないね」
言葉の意味を理解できなかった僕が 首を傾げると 彼はさらに一言 付け加えた
「センスが古だよね 申し訳ないけど」
そう言って 原稿を僕に戻すと席を立ってしまった
僕と僕の10作品は ベレッタ M92FSで見事に撃ち抜かれた
そのとき 僕の中の何かが失われた
出版社から出た僕は 自宅に到着するまでの記憶を保管しておくことが出来なかった
ただ 空に浮かぶ十日夜の月が ぼんやり輝いていたことだけが網膜に焼き付いていた
それからも 僕は執筆を続けていた
しかし それは惰性のようなもので そこに情熱は無かった
結果として バイパーがオブジェクト化されることもなく
100作品を書き上げた僕は 十五夜に誘われるように 故郷に戻った
家を出てから10年目のことだった
自宅に戻った僕を見た父は
「お前の夢は ここには無かろう」
と言って 玄関を閉ざした
僕は 何もかも失った・・・
!!
その時 不意に玄関が開き 母が言った
「今日は納屋で寝なさい」
小さなベットと平机 そして無数の段ボールが置かれた納屋は
小学生時代 僕の遊び場だった
懐かしいベットに横になると ふと段ボールのメモが目に入った
「異空間転位装置」「隣のロボット」・・・
思わず飛び起きた僕は 段ボールのふたを空けた
すると 中から大量の原稿用紙が現れた
「・・・小説?」
それは間違いなく 父の筆跡だった
僕は 月明かりを利用して 父が描いた物語を読み始めた
何時しか空は白けてきていたが 僕の目は父の小説から離れることはなかった
「お父さんは あなたに 夢をかなえてほしかったのよ・・・
お父さんの夢も”物書き”だったから
とても素敵な小説をいっぱい書いていたけど 農家を継がなくてはならなかったの
お父さんは 家のために自分の夢をあっさり投げ捨たのよ
だから あなたに自分の二の舞にさせたくなかったのよ」
いつの間にか 後ろには朝食を用意した母が立っていた
その後ろにある 小さな平机には
原稿用紙に向かう青年時代の父が浮かび上がって見えた
「ウェスリー(James McAvoy)とクロス(Thomas Kretschmann)の関係か・・・」
僕のハートがジンと音を立てて熱くなった
あれから3年 僕は両親と共に専業農家の道を歩んでいる
しかし夜は 納屋を改造した部屋で小説を綴る
窓の外には 父と僕の夢の結晶 ダッジバイパーが満月に照らされ輝いている
そのとき僕は 小説家になることが天命だと感じた
東北の片田舎から 小説家になることを夢見て上京しようとする僕を
必要に 引き留めたのは 母だった
デジタル化が加速する世相を無視して
先祖代々続く 専業農家の道を未来永劫 存続させていくことが
僕に課せられた使命なのだと 母は諭した
そんな母をやさしく嗜めたのは 父だった
「男は夢に生きるもんだ」
無口な父の 有無を言わせぬ雰囲気に
母は涙したが 僕の顔を見てそっと頷いた
田植えが終わった水無月のはじめ
水田に映り込んだ満月が 淋しそうに見つめる夜 僕は家を後にした
インターネットが普及し 地方と都会に情報格差がなくなったためか
都会の生活は 僕の想像エリア内だった
一月もたたぬうちに 気兼ねなく付き合える仲間もできた
伝統や風習にとらわれない世界は居心地がよかったが
唯一 僕の心を揺らすのは
あれだけ 大きな存在だった月明かりが ここでは 街の灯に追いやられ
とてもはかなく感じることだ
僕は 書店のアルバイトで生活費を稼ぎつつ 夜は睡眠を惜しんで執筆活動に勤しんだ
マイデスクには 初めての給与で買った 真っ赤なダッジバイパーが鎮座している
いつの日かスーパーカーに乗って凱旋するという 決意の結晶だ

半年間 一心不乱に書き上げた10作品を手に 僕は出版社を訪問した
もちろん銀賞を受賞した出版社だ
無菌室のような真っ白な応接室に通された僕の前に現れたのは
丸眼鏡にニット帽の無精ひげがうっすらと見える 長身の編集者だった
「レオン・・・殺し屋」という文字が頭をよぎった
無言のまま僕の差し出した原稿を さらっと流すように見た彼は ボソッと言った
「興味ないね」
言葉の意味を理解できなかった僕が 首を傾げると 彼はさらに一言 付け加えた
「センスが古だよね 申し訳ないけど」
そう言って 原稿を僕に戻すと席を立ってしまった
僕と僕の10作品は ベレッタ M92FSで見事に撃ち抜かれた
そのとき 僕の中の何かが失われた
出版社から出た僕は 自宅に到着するまでの記憶を保管しておくことが出来なかった
ただ 空に浮かぶ十日夜の月が ぼんやり輝いていたことだけが網膜に焼き付いていた
それからも 僕は執筆を続けていた
しかし それは惰性のようなもので そこに情熱は無かった
結果として バイパーがオブジェクト化されることもなく
100作品を書き上げた僕は 十五夜に誘われるように 故郷に戻った
家を出てから10年目のことだった
自宅に戻った僕を見た父は
「お前の夢は ここには無かろう」
と言って 玄関を閉ざした
僕は 何もかも失った・・・
!!
その時 不意に玄関が開き 母が言った
「今日は納屋で寝なさい」
小さなベットと平机 そして無数の段ボールが置かれた納屋は
小学生時代 僕の遊び場だった
懐かしいベットに横になると ふと段ボールのメモが目に入った
「異空間転位装置」「隣のロボット」・・・
思わず飛び起きた僕は 段ボールのふたを空けた
すると 中から大量の原稿用紙が現れた
「・・・小説?」
それは間違いなく 父の筆跡だった
僕は 月明かりを利用して 父が描いた物語を読み始めた
何時しか空は白けてきていたが 僕の目は父の小説から離れることはなかった
「お父さんは あなたに 夢をかなえてほしかったのよ・・・
お父さんの夢も”物書き”だったから
とても素敵な小説をいっぱい書いていたけど 農家を継がなくてはならなかったの
お父さんは 家のために自分の夢をあっさり投げ捨たのよ
だから あなたに自分の二の舞にさせたくなかったのよ」
いつの間にか 後ろには朝食を用意した母が立っていた
その後ろにある 小さな平机には
原稿用紙に向かう青年時代の父が浮かび上がって見えた
「ウェスリー(James McAvoy)とクロス(Thomas Kretschmann)の関係か・・・」
僕のハートがジンと音を立てて熱くなった
あれから3年 僕は両親と共に専業農家の道を歩んでいる
しかし夜は 納屋を改造した部屋で小説を綴る
窓の外には 父と僕の夢の結晶 ダッジバイパーが満月に照らされ輝いている
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