グッドライアー 偽りのゲーム ~ オペル・GT 1972 ~
30,2021 15:34
駐車場に入るとき
ヘッドライトとハザードランプを同時点灯させ
周りの車や歩行者へアピールするのは
街道沿いの小さな駐車場に車を入れるための習慣だった
クレマチスに覆われた店舗の窓から
そんな駐車風景を
面白そうに見ている女性店員がいた
コイツが気になるんだろう・・・
オペル・GT
今では 滅多にお目にかかることのないリトラクタブルライト
その中でも こいつは特別だ
切れ長の目の女性が 尾を引くような流し目を向けるように
クルリと横向きに回転して 丸目ライトが現れる
「20年くらい前の話らしいが ここのパン屋のコロッケパンは 絶品だと友人に聞いたのだが・・・」
私は ロイ・コートネイ（Ian McKellen）のように慎重に 店員に言った
あらあら・・・
店員は 言葉とは裏腹に 困ったようには 全く見えない笑顔で
「ご覧の通り ここは ひまーな コーヒーショップ兼花屋でして
パン屋ではありませーん！
それに 20年前 私は 幼稚園児だったし あんま わからないで―す」
無邪気に言った
確かにバイパスが開通したのは20年前だ
私は 現場監督として この街に3年間赴任していた
コロッケパンが好物だったのは 友人ではなく 私だった
・・・一緒に東京に行こう！・・・
・・・この子がいるから 無理だわ・・・
・・・大丈夫！ 僕が二人とも面倒を見るから！ コイツ（GT)で君を迎えに行く・・・
私がパン屋に通った
本当の理由であるカノジョとの最後の会話が脳裏に浮かぶ
しかし・・・
その記憶が事実だったと証明するものは この場所に 何一つ存在していなかった・・・
目的を失った私は
早々に店を出ようとした・・・
そのとき
「せっかくですから 紅茶でも いかがですか」
先ほどの 女性定員が
子供っぽい雰囲気を封印して 淑やかに声をかけてきた
Nnnnn！？
コーヒーショップなのに 紅茶を勧めてきた店員
私が コーヒーを飲めないことを どうして知っているのだ・・・ いや 単なる偶然か・・・
そんなことを思っているうちに
アールグレイが運ばれてきた
ベルガモットの優しい香りは
カノジョの笑顔を 思い出させた
I Can’t Lie
私は お礼に紫色のクレマチスを買ってＧＴに戻った
エンジンをかけようとしたとき
女性店員が 駆け寄ってきた
「自家製のラスクです よかったらどうぞ」
そう言って手渡された暖かい紙袋からは 甘いシナモンシュガーの香りが漂っていた
ありがとうと言う
私に サイドミラーの中の店員は
ウィンクしながら 左手で投げキッス・・・
！！
それは カノジョのスカートをつかんで離さない
3歳の女の子が よくやっていた仕草に似ていた
社内報に掲載された
20年前のバイパス開通記事が
カノジョとの 中途半端なエンディングに ピリオドを打たなければならないと告げていた
父親の突然の死という アクシデントが 原因だったにせよ
あの日 私は カノジョを約束という箱に
閉じ込めてしまった
しかし・・・
何の計画もなく やって来ても 結局 何も解決しなかった
”Ｇｏｍｅｎ・・・ Ｓａｙｏｎａｒａ・・・”
バイパスに入る 長い 長い 信号待ち・・・
私は 無意識に 紙袋のラスクに手を伸ばした
！！
ラスクの香りと共に
最初に手に触れたのは 小さなメモだった
『丘の上の オレンジ色の屋根』
青信号に変わったとき
オペル・GTは バイパスにテールを向けて走り出していた
S字カーブを繰り返しながら
坂道を登りきったところに オレンジ色の屋根の家はあった
ロングスカートを たなびかせながら
庭の手入れをする女性の前で
リトラクタブルライトが回転する
同時に カノジョも ゆっくりとターンした
そして
ハザードランプの点灯にあわせて
一歩一歩
ＧＴに歩み寄ってくる
「遅くなったけど・・・ 迎えに来たよ」
「ぜんぜん・・・ 遅くないよ」
カノジョの全力のLieは 涙一杯の笑顔で 崩れていた
社内報担当者のところに やってきた部長は言った
「”あの施設は今”という記事 面白いと 社長が褒めていたよ」
「ありがとうございます」
頭をかいて 照れる 担当者の机には
バイパス開通の年にオープンしたcafe兼花屋の
２代目である女性店主からの手紙と
袋一杯の 自家製ラスクが置いてあった
ヘッドライトとハザードランプを同時点灯させ
周りの車や歩行者へアピールするのは
街道沿いの小さな駐車場に車を入れるための習慣だった
クレマチスに覆われた店舗の窓から
そんな駐車風景を
面白そうに見ている女性店員がいた
コイツが気になるんだろう・・・
オペル・GT
今では 滅多にお目にかかることのないリトラクタブルライト
その中でも こいつは特別だ
切れ長の目の女性が 尾を引くような流し目を向けるように
クルリと横向きに回転して 丸目ライトが現れる
「20年くらい前の話らしいが ここのパン屋のコロッケパンは 絶品だと友人に聞いたのだが・・・」
私は ロイ・コートネイ（Ian McKellen）のように慎重に 店員に言った
あらあら・・・
店員は 言葉とは裏腹に 困ったようには 全く見えない笑顔で
「ご覧の通り ここは ひまーな コーヒーショップ兼花屋でして
パン屋ではありませーん！
それに 20年前 私は 幼稚園児だったし あんま わからないで―す」
無邪気に言った
確かにバイパスが開通したのは20年前だ
私は 現場監督として この街に3年間赴任していた
コロッケパンが好物だったのは 友人ではなく 私だった
・・・一緒に東京に行こう！・・・
・・・この子がいるから 無理だわ・・・
・・・大丈夫！ 僕が二人とも面倒を見るから！ コイツ（GT)で君を迎えに行く・・・
私がパン屋に通った
本当の理由であるカノジョとの最後の会話が脳裏に浮かぶ
しかし・・・
その記憶が事実だったと証明するものは この場所に 何一つ存在していなかった・・・
目的を失った私は
早々に店を出ようとした・・・
そのとき
「せっかくですから 紅茶でも いかがですか」
先ほどの 女性定員が
子供っぽい雰囲気を封印して 淑やかに声をかけてきた
Nnnnn！？
コーヒーショップなのに 紅茶を勧めてきた店員
私が コーヒーを飲めないことを どうして知っているのだ・・・ いや 単なる偶然か・・・
そんなことを思っているうちに
アールグレイが運ばれてきた
ベルガモットの優しい香りは
カノジョの笑顔を 思い出させた
I Can’t Lie
私は お礼に紫色のクレマチスを買ってＧＴに戻った
エンジンをかけようとしたとき
女性店員が 駆け寄ってきた
「自家製のラスクです よかったらどうぞ」
そう言って手渡された暖かい紙袋からは 甘いシナモンシュガーの香りが漂っていた
ありがとうと言う
私に サイドミラーの中の店員は
ウィンクしながら 左手で投げキッス・・・
！！
それは カノジョのスカートをつかんで離さない
3歳の女の子が よくやっていた仕草に似ていた
社内報に掲載された
20年前のバイパス開通記事が
カノジョとの 中途半端なエンディングに ピリオドを打たなければならないと告げていた
父親の突然の死という アクシデントが 原因だったにせよ
あの日 私は カノジョを約束という箱に
閉じ込めてしまった
しかし・・・
何の計画もなく やって来ても 結局 何も解決しなかった
”Ｇｏｍｅｎ・・・ Ｓａｙｏｎａｒａ・・・”
バイパスに入る 長い 長い 信号待ち・・・
私は 無意識に 紙袋のラスクに手を伸ばした
！！
ラスクの香りと共に
最初に手に触れたのは 小さなメモだった
『丘の上の オレンジ色の屋根』
青信号に変わったとき
オペル・GTは バイパスにテールを向けて走り出していた
S字カーブを繰り返しながら
坂道を登りきったところに オレンジ色の屋根の家はあった
ロングスカートを たなびかせながら
庭の手入れをする女性の前で
リトラクタブルライトが回転する
同時に カノジョも ゆっくりとターンした
そして
ハザードランプの点灯にあわせて
一歩一歩
ＧＴに歩み寄ってくる
「遅くなったけど・・・ 迎えに来たよ」
「ぜんぜん・・・ 遅くないよ」
カノジョの全力のLieは 涙一杯の笑顔で 崩れていた
社内報担当者のところに やってきた部長は言った
「”あの施設は今”という記事 面白いと 社長が褒めていたよ」
「ありがとうございます」
頭をかいて 照れる 担当者の机には
バイパス開通の年にオープンしたcafe兼花屋の
２代目である女性店主からの手紙と
袋一杯の 自家製ラスクが置いてあった
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