フルモンティ ~ Austin Princess 2 1700 1978 ~
18,2021 20:39
12年間通い続けた通勤ルート
いつもなら radiko newsを聞きながら
通り過ぎる街並みの景色を
今日は Austin Princess 2 の真っ赤な車体に 焼き付けるように
法定速度を下回る速度で ゆっくりと走った
一週間前・・・ 上司に呼び出された
「申し訳ないが 今月から給与は半分だ・・・」
新型ウィルスが 国中を席捲していくなかで
会社の業績は どうにもならないほど落ち込んでいた
こんな状況でも 君は 会社に残る道が提示されたのだから
ありがたく 思ってもらいたいものだ
そう呟く 上司の瞳は
ガズ(Robert Carlyle)の上司 ジェラルド(Tom Wilkinson)を思い出させた
半分の給料では
今のマンションをあきらめるか こいつを手放すしかない・・・
Austin Princess 2 を眺めながら 僕は彼女に連絡した
「そんなの 車の処分しかないじゃない!
景気が良くなったら また買えばいいんだから」
携帯電話から聞こえてきた 彼女の声は 灰色の塊だった
彼女が愛しているのは 僕ではなく 僕を取り巻く環境だった・・・
自分の思いとは 別のところで
自分の人生が 決められていく
そんなものなのかもしれない
あきらめのような 空気に包まれ 僕は 愛車を手放すことにした
車通勤 最後の帰り道・・・
会社の駐車場を出て ゆっくり動き出す Austin Princess 2
いつものように Cafébar Casablanca に立ち寄り
プッシーフットを ぐいと 一気に飲み干す
(オレンジジュース45ml・レモンジュース15ml・グレナデンシロップ1tsp・卵黄一個)
ふわりと 春風を感じながら マホガニーのカウンターの感触を焼き付けようとする僕に
マスターは どうぞ・・・ と言いながら オレンジとレモンを一つずつ テーブルに置いた
Cafébarを出ると 旧道に入った
無心で 走り抜ける峠道
最頂部に鎮座するお地蔵さまに マスターにもらった オレンジを おすそ分け・・・
峠を降り切ると 新道との交差点にある
ログハウス調の建物の前に Princess 2は停まった
” Full Monty”
明日の朝食を仕入れるために 毎晩通っていたパン屋だ

「いらっしゃいませ」
店の前に咲く桃色の ハナミズキのようなカノジョに
今日が最後の訪問になると 打ち明けた
「そうでしたか・・・
実は・・・ このお店も今月でおしまいなんです」
カノジョが言った
「えっ・・・ そうなんですか」
「はい この店のオーナー・・・
叔父なんですが サラリーマンをリタイアして ここで飲食店を始めることになりました。
私は 地元に帰るんです」
そう言うと カノジョは 僕の後ろ・・・
店の壁に掛けられた 写真を指差した
「あれが 私のふるさとです」
孤島を渡る白い道路 そして白い砂浜・・・
「過疎の島で パン屋さんも 一軒もない・・・
私は あそこで この店を 続けるつもりです
それが私の 生き甲斐なんです」
生き甲斐・・・ か・・・
「裸で泳げるビーチも あるんですよ」
「ハダカ・・・!!」
僕の心肺機能が 一時停止した・・・
「そう!! フルモンティ!!」
カノジョは 舌をぺろりと出して 笑った
慌てて 最後のレーズンパンを受け取ろうとした僕は
マフィンのように柔らかい カノジョの手に触れた
心肺が蘇生したと思ったら
今度は 地球の自転が 緩やかになった
「あぁ・・・ 一度でいいから 助手席に乗ってみたかったなぁ」
窓の外に見えるPrincess 2を 見ながらカノジョが そう言った瞬間・・・
世界中の時計が 一斉に電池切れを起こしたのだろう・・・
時が止まった・・・
半年後・・・
過疎の島にある 白亜の建物が眩しいパン屋の扉が開いた
「いらしゃ・・・!!」
半年前 世界を停めた カノジョが固まった・・・
「僕でも パンを焼けるかなぁ」
外には Austin Princess 2 が 停まっていた
「助手席に乗せてくれたら お教えします・・・ そして 秘密のビーチも・・・」
カノジョは 満面の笑顔で 僕を迎えた
Joe Cocker - You Can Leave Your Hat On
~帽子だけは取らないで♪ ♪ ~
マンションも・・・
彼女も・・・
会社も・・・
帽子ではなく
Princess 2以外 すべてを投げ出した僕は フルモンティ・・・
自分の生き甲斐は ここにある
カノジョと共に
素っ裸になった僕は 真っ青な 海に飛び込んだ!
いつもなら radiko newsを聞きながら
通り過ぎる街並みの景色を
今日は Austin Princess 2 の真っ赤な車体に 焼き付けるように
法定速度を下回る速度で ゆっくりと走った
一週間前・・・ 上司に呼び出された
「申し訳ないが 今月から給与は半分だ・・・」
新型ウィルスが 国中を席捲していくなかで
会社の業績は どうにもならないほど落ち込んでいた
こんな状況でも 君は 会社に残る道が提示されたのだから
ありがたく 思ってもらいたいものだ
そう呟く 上司の瞳は
ガズ(Robert Carlyle)の上司 ジェラルド(Tom Wilkinson)を思い出させた
半分の給料では
今のマンションをあきらめるか こいつを手放すしかない・・・
Austin Princess 2 を眺めながら 僕は彼女に連絡した
「そんなの 車の処分しかないじゃない!
景気が良くなったら また買えばいいんだから」
携帯電話から聞こえてきた 彼女の声は 灰色の塊だった
彼女が愛しているのは 僕ではなく 僕を取り巻く環境だった・・・
自分の思いとは 別のところで
自分の人生が 決められていく
そんなものなのかもしれない
あきらめのような 空気に包まれ 僕は 愛車を手放すことにした
車通勤 最後の帰り道・・・
会社の駐車場を出て ゆっくり動き出す Austin Princess 2
いつものように Cafébar Casablanca に立ち寄り
プッシーフットを ぐいと 一気に飲み干す
(オレンジジュース45ml・レモンジュース15ml・グレナデンシロップ1tsp・卵黄一個)
ふわりと 春風を感じながら マホガニーのカウンターの感触を焼き付けようとする僕に
マスターは どうぞ・・・ と言いながら オレンジとレモンを一つずつ テーブルに置いた
Cafébarを出ると 旧道に入った
無心で 走り抜ける峠道
最頂部に鎮座するお地蔵さまに マスターにもらった オレンジを おすそ分け・・・
峠を降り切ると 新道との交差点にある
ログハウス調の建物の前に Princess 2は停まった
” Full Monty”
明日の朝食を仕入れるために 毎晩通っていたパン屋だ

「いらっしゃいませ」
店の前に咲く桃色の ハナミズキのようなカノジョに
今日が最後の訪問になると 打ち明けた
「そうでしたか・・・
実は・・・ このお店も今月でおしまいなんです」
カノジョが言った
「えっ・・・ そうなんですか」
「はい この店のオーナー・・・
叔父なんですが サラリーマンをリタイアして ここで飲食店を始めることになりました。
私は 地元に帰るんです」
そう言うと カノジョは 僕の後ろ・・・
店の壁に掛けられた 写真を指差した
「あれが 私のふるさとです」
孤島を渡る白い道路 そして白い砂浜・・・
「過疎の島で パン屋さんも 一軒もない・・・
私は あそこで この店を 続けるつもりです
それが私の 生き甲斐なんです」
生き甲斐・・・ か・・・
「裸で泳げるビーチも あるんですよ」
「ハダカ・・・!!」
僕の心肺機能が 一時停止した・・・
「そう!! フルモンティ!!」
カノジョは 舌をぺろりと出して 笑った
慌てて 最後のレーズンパンを受け取ろうとした僕は
マフィンのように柔らかい カノジョの手に触れた
心肺が蘇生したと思ったら
今度は 地球の自転が 緩やかになった
「あぁ・・・ 一度でいいから 助手席に乗ってみたかったなぁ」
窓の外に見えるPrincess 2を 見ながらカノジョが そう言った瞬間・・・
世界中の時計が 一斉に電池切れを起こしたのだろう・・・
時が止まった・・・
半年後・・・
過疎の島にある 白亜の建物が眩しいパン屋の扉が開いた
「いらしゃ・・・!!」
半年前 世界を停めた カノジョが固まった・・・
「僕でも パンを焼けるかなぁ」
外には Austin Princess 2 が 停まっていた
「助手席に乗せてくれたら お教えします・・・ そして 秘密のビーチも・・・」
カノジョは 満面の笑顔で 僕を迎えた
Joe Cocker - You Can Leave Your Hat On
~帽子だけは取らないで♪ ♪ ~
マンションも・・・
彼女も・・・
会社も・・・
帽子ではなく
Princess 2以外 すべてを投げ出した僕は フルモンティ・・・
自分の生き甲斐は ここにある
カノジョと共に
素っ裸になった僕は 真っ青な 海に飛び込んだ!
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