クレイジーハート ~ シボレーサバーバン 1977 ~
27,2020 18:17
新型ウィルスによって社会環境は大きく変わってしまった
何のとりえもない
ただ人から 比較的好かれる性格だったことに加えて
仕事として 各地を旅行できるという安易な気持ちで
ツアー添乗員を選んだ
バブル期に
入社して旅行会社に30年
自分には もったいない家内とも ツアーで知り合った
マイホームも何とか35年ローンで購入することもできた
願わくは
二人の間に子供がいてくれれば という思いも
この年になると思わないわけではないが
それも 愛猫のガンちゃんが その思いを十分埋めてくれていた
そんなどこにでもあるサラリーマン生活が
2020年のクリスマスに 弾けて飛んだ
ボーナスがないことは
一月前に告知されていたにもかかわらず
僕は 上司に呼ばれた
いまや時代錯誤のようなポマードでばっちり髪を固めた
私より10歳も年下の彼は
いつものように前髪をつまみながら言った
「会社を守るためには やむを得ない選択なんだ」
僕への解雇通知だった
「えっ・・」
頭の中で
バッドブレイク(Jeff Bridges)がバーボングラスを放り投げた
「会社は 最大限のフォローをするよ
有給休暇も取ってないようだから 残り一ヶ月は出勤の必要もない
ただ・・・
会社の危機だから 退職金が満額とはいかないかも・・・」
最後に にんまりと笑いながら 彼は言った
会社を早退した僕は 家内に内緒で
1977 Chevrolet Suburbanに乗り込んだ
思考停止の中 只管 武骨な車内の中に カントリーウエスタンが流れていた

いつしか 長野の山奥まで来たが
雪は積もってない
ガソリンがほぼなくなったころ 鄙びた温泉旅館に 到着した
温泉につかっているときも
布団に横たわっても
ずっと バッドの唄声が 聞こえていた
知らぬ間に 夜が明けた
30年 通い続けた会社の出勤時間にあわせた起床時間6:30であることに
僕は気づいていない・・・
いつものように
15分シャワーを浴びるて
部屋に戻ると
いつものように 半熟の目玉焼きとイチゴジャムのトーストがテーブルに置かれていた
しっかり 完食した僕は
1977 Chevrolet Suburbanを駐車場に おいたまま
昨晩見かけた 軽井沢高原教会に向かった
クリスマスが終わったあとの教会は
一仕事終えたように
どことなく アンニュイな雰囲気を漂わせている
誰もいない 早朝の 教会の座席に腰を下ろす
ここでも聞こえてくるのは
パイプオルガンではなく スライドギターの響きだった
Jeff Bridges: The Weary Kind
「おはよう」
背後から 聞き覚えのある声・・・
「どうして・・・」
振り返った僕は
目の前に 聖母のような家内を見つけた
「どうしてここがわかったんだい」
そういえば・・・
あの目玉焼き・・・ 素泊まりのはずだったのに・・・
「あなたはすぐにケータイを無くすから お互いに位置情報をとれるようにしていたじゃない」
カノジョは いとも簡単に 魔法のネタを明かしてくれた
どこまでもドジな男だ
失踪することさえ ろくにできない・・・
「それに
ここは私たちが結婚式を挙げた場所ですよ」
「あぁ・・・」
無意識に 僕は 幸せの原点に戻ろうとしたのだろうか
あの日に・・・
「僕は・・・ 僕は・・・」
言葉が詰まる僕の口元に カノジョの人差し指が蓋をする
「ねぇ・・・」
そして
カノジョは 僕の両手をつかむと 今度は 自分の頬に僕の手をギューッと押し付けた
朝一番の教会の室内は
外と同じ氷点下
カノジョの頬も 凍り付きそうだ
しかしカノジョは
そのままずっと僕の手を頬にあてていた
やがて・・・
カノジョの頬も 僕の両手も少しづ暖かくなり始めた
「ほおら! あなたがそばにいるだけで こんなにも暖かくなるの」
カノジョは
瞳に涙を浮かべながら言った
「私を 一人にしないでね」
30年前 照れくさくて 1秒だった口づけの
やり直しは
カノジョのぬくもりを感じた180秒になった
何のとりえもない
ただ人から 比較的好かれる性格だったことに加えて
仕事として 各地を旅行できるという安易な気持ちで
ツアー添乗員を選んだ
バブル期に
入社して旅行会社に30年
自分には もったいない家内とも ツアーで知り合った
マイホームも何とか35年ローンで購入することもできた
願わくは
二人の間に子供がいてくれれば という思いも
この年になると思わないわけではないが
それも 愛猫のガンちゃんが その思いを十分埋めてくれていた
そんなどこにでもあるサラリーマン生活が
2020年のクリスマスに 弾けて飛んだ
ボーナスがないことは
一月前に告知されていたにもかかわらず
僕は 上司に呼ばれた
いまや時代錯誤のようなポマードでばっちり髪を固めた
私より10歳も年下の彼は
いつものように前髪をつまみながら言った
「会社を守るためには やむを得ない選択なんだ」
僕への解雇通知だった
「えっ・・」
頭の中で
バッドブレイク(Jeff Bridges)がバーボングラスを放り投げた
「会社は 最大限のフォローをするよ
有給休暇も取ってないようだから 残り一ヶ月は出勤の必要もない
ただ・・・
会社の危機だから 退職金が満額とはいかないかも・・・」
最後に にんまりと笑いながら 彼は言った
会社を早退した僕は 家内に内緒で
1977 Chevrolet Suburbanに乗り込んだ
思考停止の中 只管 武骨な車内の中に カントリーウエスタンが流れていた

いつしか 長野の山奥まで来たが
雪は積もってない
ガソリンがほぼなくなったころ 鄙びた温泉旅館に 到着した
温泉につかっているときも
布団に横たわっても
ずっと バッドの唄声が 聞こえていた
知らぬ間に 夜が明けた
30年 通い続けた会社の出勤時間にあわせた起床時間6:30であることに
僕は気づいていない・・・
いつものように
15分シャワーを浴びるて
部屋に戻ると
いつものように 半熟の目玉焼きとイチゴジャムのトーストがテーブルに置かれていた
しっかり 完食した僕は
1977 Chevrolet Suburbanを駐車場に おいたまま
昨晩見かけた 軽井沢高原教会に向かった
クリスマスが終わったあとの教会は
一仕事終えたように
どことなく アンニュイな雰囲気を漂わせている
誰もいない 早朝の 教会の座席に腰を下ろす
ここでも聞こえてくるのは
パイプオルガンではなく スライドギターの響きだった
Jeff Bridges: The Weary Kind
「おはよう」
背後から 聞き覚えのある声・・・
「どうして・・・」
振り返った僕は
目の前に 聖母のような家内を見つけた
「どうしてここがわかったんだい」
そういえば・・・
あの目玉焼き・・・ 素泊まりのはずだったのに・・・
「あなたはすぐにケータイを無くすから お互いに位置情報をとれるようにしていたじゃない」
カノジョは いとも簡単に 魔法のネタを明かしてくれた
どこまでもドジな男だ
失踪することさえ ろくにできない・・・
「それに
ここは私たちが結婚式を挙げた場所ですよ」
「あぁ・・・」
無意識に 僕は 幸せの原点に戻ろうとしたのだろうか
あの日に・・・
「僕は・・・ 僕は・・・」
言葉が詰まる僕の口元に カノジョの人差し指が蓋をする
「ねぇ・・・」
そして
カノジョは 僕の両手をつかむと 今度は 自分の頬に僕の手をギューッと押し付けた
朝一番の教会の室内は
外と同じ氷点下
カノジョの頬も 凍り付きそうだ
しかしカノジョは
そのままずっと僕の手を頬にあてていた
やがて・・・
カノジョの頬も 僕の両手も少しづ暖かくなり始めた
「ほおら! あなたがそばにいるだけで こんなにも暖かくなるの」
カノジョは
瞳に涙を浮かべながら言った
「私を 一人にしないでね」
30年前 照れくさくて 1秒だった口づけの
やり直しは
カノジョのぬくもりを感じた180秒になった
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