ブラックスワン ~ ヤリスクロス Z 2020 ~
29,2020 21:22
ヤリスクロスの助手席にいる彼は
いつも Craft BOSSを手にして
フロントガラスの向こうに広がる 風景を見ながら
僕の愚痴を 黙って聞いている
くだらない 合いの手も
忖度したような頷くしぐさもなく
ただ 全身で僕の話を受け止めてくれていた
しかし
その日の彼は 饒舌だった
「君の道をふさぐのは君自身だ、自分を解き放つことだ」
そして
トマ・ルロイ（Vincent Cassel）がニナ（Natalie Portman）に言った あの言葉で締めくくった・・・
身近にいながら
ずっと告白できなかったカノジョが 婚約したという噂が流れてきた
人間関係に疎い
僕の耳にさえ届いた情報だ
ゆるぎない事実なのだろうと あきらめた
しかし・・・
彼の一言が僕のハートに火を灯した
彼を含む 三人の幼馴染と共に
今日 僕は カノジョを奪って逃げてきた
もちろん カノジョの同意の下で
自宅に向かうヤリスクロス
どの道を通て ここまでやってきたのか
そして あとどれだけ走れば 我が家につくのか
記憶も不明瞭になるほど 僕はどっぷり 疲れていた
突然・・・
助手席の彼が 僕の肩を叩いた
目の前に 道の駅の看板が見えた
駐車場にヤリスクロスが停まると
カノジョは 気を利かせてドリンクを買いにショップへ向かった
後姿を見ていた僕に
後部座席の友人が言った
「今日は 頑張ったね
お前に こんな行動力があるとは 思わなかったよ」
バックミラーに映る 友人たちの笑顔に呼応するように
普段無表情の 助手席の彼の口角が上がった
「君らのおかげだよ」
僕は言った
それじゃ・・・
後部座席の二人が 車を降りた
「ここいらで お邪魔な 僕らは 消えるよ！！」
「えっ！ ここで降りるのかい」
運転席から出た僕は 必死に呼び止めたが 彼らは行ってしまった
「恥ずかしんだろうけど
カノジョは助手席に 座ってもらうべきだぞ」
そう 言い残して・・・
いやいや
助手席は 彼の指定席だから・・・
そう思いながら 助手席に目をやると
彼が ヤリスクロスから降りているのに気付いた
「僕も ここで降りるよ 君はもう大丈夫だから・・・
ただ・・・
どうしても・・・
君が僕を望むのなら・・・
ここを出たあと 次の交差点を右折するといい・・・」
それだけ言うと彼も 行ってしまった
みんな・・・ ありがとう・・・
助手席にカノジョを乗せると
僕は ヤリスクロスは発車させた
「折角 みんなのコーヒーを買ってきたのに・・・」
そういうカノジョが取り出した
ホットコーヒーは
なぜか４本しかなかった
なんとなく 違和感を覚えつつも
僕の頭の中では
彼の言葉が 渦巻いていた
道の先に 信号が見えた・・・
僕には・・・
やっぱり これからも 君が必要だよ・・・
右手が ウインカーへ触れようとした そのとき・・・
カノジョが言った
「ありがとう・・・ ずっと 待っていたのよ」
甘酸っぱい一言が 全身に染み渡り
僕は 左手で カーステレオのスイッチを入れていた
Sarah McLachlan - Illusions Of Bliss
ヤリスクロスは 交差点を直進した
その直後
対向車線を走っていたトラックが信号を無視して
交差点を右折する車と正面衝突したのだが・・・
ヤリスクロスの二人には もう 関係のないことだった
いつも Craft BOSSを手にして
フロントガラスの向こうに広がる 風景を見ながら
僕の愚痴を 黙って聞いている
くだらない 合いの手も
忖度したような頷くしぐさもなく
ただ 全身で僕の話を受け止めてくれていた
しかし
その日の彼は 饒舌だった
「君の道をふさぐのは君自身だ、自分を解き放つことだ」
そして
トマ・ルロイ（Vincent Cassel）がニナ（Natalie Portman）に言った あの言葉で締めくくった・・・
身近にいながら
ずっと告白できなかったカノジョが 婚約したという噂が流れてきた
人間関係に疎い
僕の耳にさえ届いた情報だ
ゆるぎない事実なのだろうと あきらめた
しかし・・・
彼の一言が僕のハートに火を灯した
彼を含む 三人の幼馴染と共に
今日 僕は カノジョを奪って逃げてきた
もちろん カノジョの同意の下で
自宅に向かうヤリスクロス
どの道を通て ここまでやってきたのか
そして あとどれだけ走れば 我が家につくのか
記憶も不明瞭になるほど 僕はどっぷり 疲れていた
突然・・・
助手席の彼が 僕の肩を叩いた
目の前に 道の駅の看板が見えた
駐車場にヤリスクロスが停まると
カノジョは 気を利かせてドリンクを買いにショップへ向かった
後姿を見ていた僕に
後部座席の友人が言った
「今日は 頑張ったね
お前に こんな行動力があるとは 思わなかったよ」
バックミラーに映る 友人たちの笑顔に呼応するように
普段無表情の 助手席の彼の口角が上がった
「君らのおかげだよ」
僕は言った
それじゃ・・・
後部座席の二人が 車を降りた
「ここいらで お邪魔な 僕らは 消えるよ！！」
「えっ！ ここで降りるのかい」
運転席から出た僕は 必死に呼び止めたが 彼らは行ってしまった
「恥ずかしんだろうけど
カノジョは助手席に 座ってもらうべきだぞ」
そう 言い残して・・・
いやいや
助手席は 彼の指定席だから・・・
そう思いながら 助手席に目をやると
彼が ヤリスクロスから降りているのに気付いた
「僕も ここで降りるよ 君はもう大丈夫だから・・・
ただ・・・
どうしても・・・
君が僕を望むのなら・・・
ここを出たあと 次の交差点を右折するといい・・・」
それだけ言うと彼も 行ってしまった
みんな・・・ ありがとう・・・
助手席にカノジョを乗せると
僕は ヤリスクロスは発車させた
「折角 みんなのコーヒーを買ってきたのに・・・」
そういうカノジョが取り出した
ホットコーヒーは
なぜか４本しかなかった
なんとなく 違和感を覚えつつも
僕の頭の中では
彼の言葉が 渦巻いていた
道の先に 信号が見えた・・・
僕には・・・
やっぱり これからも 君が必要だよ・・・
右手が ウインカーへ触れようとした そのとき・・・
カノジョが言った
「ありがとう・・・ ずっと 待っていたのよ」
甘酸っぱい一言が 全身に染み渡り
僕は 左手で カーステレオのスイッチを入れていた
Sarah McLachlan - Illusions Of Bliss
ヤリスクロスは 交差点を直進した
その直後
対向車線を走っていたトラックが信号を無視して
交差点を右折する車と正面衝突したのだが・・・
ヤリスクロスの二人には もう 関係のないことだった
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