僕とカノジョのデートは
田園風景の中に忽然と現れるゲームセンター”One Silver Dollar”が定番だった

西部の酒場を彷彿させる両開きのウェスタンドアを開けると
Giuliano GemmaやClint Eastwood　
そしてLee Van Cleefの写真が所狭しと並ぶ
バックミュージックは　エンニオ・モリコーネだ


マカロニウエスタンをこよなく愛す　僕らにとって最高の場所だった

イヴリン・スチュアートのように素朴なカノジョは　
コインを少しづつ落としていくプッシャーゲーム派
ジェンマを気取る僕は　一攫千金のスロット派だ
　「あまり冒険しないで　ゆっくりやりましょう」
これは　カノジョの口癖
確かに　僕のコインはいつもあっという間に無くなってしまう

でも　それでいいんだ・・・

一文無しになった僕は　カノジョの横に座る
ゲームに夢中のカノジョを　眺めるのが好きだった

そんなカノジョの胸には　コインのペンダントが輝いている
初デートの気持ちをいつまでも・・・
カノジョはその時のコインをペンダントにしていた　

帰り道は　ワインディングロード　
左右に展開する急カーブは　カノジョのペンダントを大きく揺らす
真っ赤なコルトラリアートversionR
もちろんコルト・シングル・アクション・アーミーと同名だから選んだのだが
トップギアーまで　修敏なシフトワークが必要なこの車は
ドライバーに　早打ちガンマンの素質を求めた
荒野のヒーローには暴れ馬がよく似合う


ある宴会の席で　僕は”One Silver Dollar”の魅力を同僚に話した
とても軽い気持ちだった

それから三日後　カノジョが僕のデスクにやってきた
社内の噂を気にしていた僕らは　極力会社で合わないようにしていた・・・のだが・・・
　「”One Silver Dollar”のこと話したの？」
とカノジョ
　「えっ！ああー　なりゆきでね」
するとカノジョは僕の机にペンダントを置いた
　「私たちだけの　秘密だと思ってた」
カノジョのデリンジャーが火を噴いた　そんな気がした　

その日から　僕とカノジョの間には　見えない国境が引かれた
そして一ヶ月後　僕は北国への転勤が決まった
カノジョの放った　弾丸を胸に残したまま・・・

あれから１年　僕は再び本社勤務になった
しかし　カノジョは半年前に退職していた
自宅も携帯番号も変わってしまったカノジョとは　二度と会うことができない

僕は暴れ馬を駆ってOne Silver Dollarに向かった
夕日で空が赤く染りはじめたころ　
僕の胸元にあるコインが　太陽光を反射し　
赤信号で止まった対抗車線のドライバーを照らした
　「失礼・・・」
そう思って手を上げようとした瞬間・・・そこにイヴリン・スチュアートが居た

　
僕は　カノジョに向かってペンダントヘッドを見せた
One Silver Dollarのコインが　もう一度　恋のチャンスをくれた
ゲイリーオハラ（ジュリアノジェンマ）が命をひろったコインのように