サウンドオブミュージック ~ S17クラウン 2002 ~
04,2018 18:27
60年前・・・
初めてのお客様は 同愛記念病院を指定した
腰の曲がったおばあさんは
長年連れ添った旦那さんが危篤だと言っていた
あの頃のタクシーは
社交場のように お客様もよく自分のことを話した
新橋で乗せた泥酔したサラリーマンは
連光寺(多摩市)までの 約1時間半
上司の悪口を言いっぱなしだった
上司のいないドライバーという職業を選んでよかったと思った帰り道・・・
真っ暗な多摩川河川敷の道路でパンクした
朝まで仕事にならなかったとき
ドライバーにならなきゃよかったと思った

三郷団地に行ったときも困った
巨大な団地群は どこを曲がっても さっきいた場所と同じだった
狸に化かされたかのように
団地の迷路から抜け出せなくなったとき 出口を教えてくれたのが 後の家内だった
タクシードライバーは
望まなくとも 世の中の流行に敏感になる
街を歩く女性のファッションの変遷や
建物の形状 それに 様々な名店を知ることができた
”ファミリアに 行きたい”という若い夫婦を乗せたとき
それが 銀座の一等地にできた子供服店だと知った
軽い気持ちで 自分の赤ん坊にも カバーオールを買ったら
一日の稼ぎより高額な支払いに驚いた
そごう有楽町が閉店する日
有楽町で逢いましょうを口ずさむ 夫婦が乗車した
「私たちの思い出がまた一つ消えていきますね」
同世代の彼らの会話が身に染みた
このころ 私はカーナビを使い始めた
都市の成長は 自分の記憶より はるかに速くなっていた
ららぽーと豊洲がオープンした年は
息子が 豊洲に家を買って独立した年・・・
そして 家内が逝った年
肩にのっていた 大きく重たい責任という荷物がなくなり
私は 生きる目標を失った
そんなある日・・・
汐留に移転したテレビ局から 乗せた女性は
見送りの人に笑顔で挨拶していたが
彼らが見えなくなると こらえきれなくなった涙で溺れそうだった
私は そっと 彼女にハンカチを渡した
長年連れ添った 家内の最後のプレゼント 真っ白なハンカチを・・・
翌日のニュースで
電撃引退を発表した歌手だったことを知った
カノジョも 生きる目標を失たのだ
そして今日・・・
私は タクシードライバーを卒業する
最後のお客様が示した場所は・・・
同愛記念病院だった
これから 赤ん坊が生まれるんです
若いサラリーマンの男性は 瞳をキラキラさせていた
私のタクシー人生は ドレミファソラシド・・・
(どうあい・れんこうじ・みさと・ファミリア・そごう・ららぽーと・しおどめ・どうあい)
どれも 忘れられない思い出の場所
私の 耳に マリア(Julie Andrews)と7人の子供たちの
歌が流れた
サウンドオブミュージック・・・
マリアが 子供たちと一緒に大草原で歌うシーンが有名だが
実は あれはナチスドイツ反戦映画だった
様々な苦境を乗りこえ 結ばれていく家族・・・
私を支えてくれた 家族たち・・・ そして3台目になるクラウン
映画と自分の人生がシンクロいた
夕陽のオレンジ色に染まったクラウンのボディを撫でながら
鼻歌で So Long, Farewell を歌っていた時・・・
息子から の電話が鳴った
神様は もう一度 私の肩に小さな荷物をのせた
私は おじいさんになった
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