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君の名は。 ~ フィガロ ~

 13,2017 21:10
「おいっ! この資料なんだよ」
「なんだよ! まだ前回の資料ができてないのか!」
「おいっ!! いくぞ! グズグズするな!」

罵声に包まれた毎日も5年目を迎えた
それは 自分のポジションになってしまったようで
毎年新入生が入社しても
僕を包み込む環境に変化はなかった

今年も夏休み返上で
出勤を覚悟していた僕は 突然 部長から呼び出された

「お前の有休消化率が悪いと人事から指導があった
 自分の管理ぐらいしっかりやってくれよ・・・」

上司にとっては不本意だったであろうが
棚ぼたの夏休みが与えられ
僕は 5年ぶりに帰省するこになった

フィガロ

K10型マーチをベースにした
オープンカーのフィガロが僕の愛車
35度を超える日差しの中だったが
故郷の香りを からだいっぱい感じようと
僕は トップフードをオープンにして走った

フィガロの結婚を 空に棚引かせて・・・

国道に設置された
”ようこそ 潮風の街へ”
という錆びた看板を探す・・・
記憶に焼き付いた 景色の断片から
次のカーブを曲がると それは見えるはずだった

しかし・・・

突如現れたのは
LEDが仕込まれ 
クラゲのご当地キャラクターだった

街に入っても 故郷の面影は見当たらない
メインストリートの道幅が広くなり 街を分断していた
必死になって
ギャラガやエレベーターアクションに挑んだ 喫茶店は 
セイレンのロゴマークのCafeに変わり
スーパーは巨大な100円ショップになっていた



巨大な隕石が落下したわけでもないのに・・・
たった5年の間に 僕の故郷は消えていた

変わっていないのは 僕とフィガロ
そして 浜辺から見る海の風景だけだった・・・

砂浜で ぼんやりと 
オレンジ色に染まる 入道雲を見ていると
思い出をくすぐるような
お囃子が 風に乗って聴こえてきた

あれは・・・

記憶のままに フィガロを駆った
子供の頃 遊び回った山道は見当たらなかったが
美しい欧風調の街並みの中に ほんの一部 こんもりとした森が見えた

ワタツミ様のお祭りか・・・

神社の駐車場に車を停めて 境内に入る

お面に焼きそば 金魚すくいと
様々な屋台が並んでいる様は 子供の頃の記憶と似ていたが
そこで 楽しむ街の人は 
誰もが垢抜けていて 漁師町だったころの
昔からの住民とは思えなかった

ここは 僕の故郷じゃない・・・

祭りの屋台といえば・・・
子供の頃から変わらない僕は
ウルトラマンのハッカパイプを口にくわえて 
フィガロに戻りエンジンを点火した・・・とその時

「シュウちゃん?」

懐かしい声に 振り向くと
金魚柄の浴衣を着た 
幼馴染のカノジョが 立っていた

やぁ・・・

照れくさかった僕は 
いつものことだが 野暮ったい返事しか出なかった・・・

「フィガロなんて・・・珍しいと思ったの・・・
 やっぱり・・・シュウちゃんだ!!」
一段と大きな声を上げて
カノジョは 僕に飛びついてきた

おいおい・・・

少し戸惑いながらも 遠い昔に記憶していた
カノジョの石けんの香りが蘇ってきた

そういえば・・・ 僕の名は?・・・
 Syuuiciだった



5年間 誰も呼んでくれなかった名前を
僕自身が忘れかけていた

オープンカーのフィガロは 開け放たれた玉手箱
自分の名前と 大切な人を 思い出させてくれた

フィガロのカーステレオから 
オペラ・・・恋とはどんなものかしら 
が流れはじめた時

再開した 僕たちの 時計は同じ時を刻みはじめた





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