遠い空の向こうに ~ ジェミニ イルムシャーR ~

 07,2017 22:01
新緑の山々を分け入った猫額の盆地
それが僕の故郷だ

高速に乗れば
3時間ほどの この場所に
僕は105,000時間かけて戻ってきた

12年前 
僕は農家を継いでほしいという父に反発して 
家を飛び出した

心配をかけないように
居場所を伝えていた母から 
時折 仲裁の電話が入ったが
父も僕も 一歩も譲ることはなかった

「ほんと 親子だねぇ」
頑固な二人に愛想を尽かしたのだろう 
やがて 母からの電話も 途絶えてしまった・・・

そんな関係は 僕が結婚して
父親になっても続いていた

ある日・・・ 妻が言った
「絶対に このままでは いけないと思う
 この子にとっては おじいちゃん と おばあちゃんなのよ!」

最愛の娘の 無垢な瞳に諭され
僕は 故郷に帰ることを決心した

ジェミニ 1988

2017年5月・・・
僕は 
12年前と全く同じ 空気に包まれた故郷に戻ってきた

「ただいま・・・」

12年前の記憶と寸分違わぬ実家の玄関・・・
緊張でドアノブをつかむ手に汗が滲んだ
仏頂面の父親に 怒鳴られる覚悟で扉を開けた

すると・・・
そこには 笑顔の両親がいた
安堵がじんわり 僕の体に浸透した

父は 初対面の息子の嫁に 無礼を詫びると初孫を抱いた 
今まで見たことが無い 好々爺の笑顔だった
「来てよかったね」
耳元で カノジョが囁いた

「今日は 私がこの娘の面倒見てあげるから ゆっくりなさい」
母の一言で 気楽になったのか
その晩 カノジョは 早々に床についた

囲炉裏のある居間には
父と僕・・・そして 日本酒だけになった

天井を仰ぐように
静かに グラスを空けた父は・・・
ギロリと僕を睨んだ

「なんで 来たんだ!  この バカタレが!!」

やはり 変わってなかった・・・
父は 12年前の あの日のままだった

「そんなことだろうと思った
 明日には 帰るから 安心しろ!」
そう言うと 僕は居間を後にした

「いつまでたっても バカタレは バカタレか」
父の言葉を背中にあびながら・・・
「やっぱり 戻ってくるべきじゃなかった」 そう思った・・・



翌朝・・・
僕は 早々に帰る支度をしていた
すると 父がやってきた
「わしの車に乗れ
 お前の車は いつか改めて取りに来い」

「そんな親切はご無用さ
 あんたは 草いじりが忙しいんだろう!」
僕は 精一杯の皮肉を放った

しかし・・・ 父は そんな僕を無視すると
ハラハラしながら 僕らを見ていた妻に向かって
ニコリと微笑んで言った
「わしが 送っていくよ
 少し 揺れるから この娘をしっかり抱いててくれよ」

妻は ニコリと微笑み 頷いた
カノジョを味方につけた父に 僕は抵抗することができなかった
やむを得ず 父の車に乗った・・・
懐かしい ジェミニ イルムシャーR

母との 別れの挨拶もほどほどに 車は発進した

1.6リッターのエンジンは 
相変わらず すごブル調子がいい
外観は傷だらけだが 駆動系は 手入れが行き届いている

今座っている この助手席は 僕の特等席だった
父は 週末 僕を乗せて山道をドライブした・・・

昔の記憶に思いを馳せていると・・・

突然 父が言った
「おい!! バカタレ! あれを見てみろ!」

山頂まで昇り切った ジェミニの助手席から 麓が見えた

!!

そこに見えたのは 果てしなく続く 渋滞した道路だった

「バカタレ!
 お前は こんな小さな孫と 子育てに大変な かみさんを 
 あんな渋滞に巻きこもうとしたんだぞ
 あれにハマったら 今日は夜まで車の中だ」

迂闊だった・・・
ゴールデンウィークの大渋滞は予想できたはずなのに・・・
僕は・・・ほんとうに・・・ バカタレだ
今も・・・ そして12年前も・・・ 
もっと 父さんと話し合うべきだった・・・

「まぁ わしとコイツにまかせておけば 問題はないがな!」

そう言うと 父はステアリングをポンと叩いて 
ジェミニを発進させた

道なき道のような獣道に
車体と 同じ道幅の林道を 風のように走り抜ける
ドイツのチューナー”イルムシャー”が手がけた車・・・
それだけでは できない芸当だ

やがて
覆いかぶさるように茂った草木がが消え 平地に出ると 
渋滞は消えていた

!!

急に ジェミニが停まる・・・

「こっから先は お前が運転しろ」
そう言うと父は車から降りた

林道を走り抜けて
擦り傷だらけの ジェミニのボディを擦りながら
「傷つけるなよ」
運転席の 窓越しに父が言った
Hahahahahaha・・・

父が笑った・・・ そして僕も・・・
一緒に笑ったのは 何年ぶりだろう

「ほら! 子供が起きるぞ! 早くいけ!!」
後部座席で すやすや眠るカノジョと娘・・・

小さく頷いた僕は ジェミニを発車させた

バックミラーに映る父が小さくなっていく・・・



ふと・・・
映画「遠い空の向こうに」のワンシーンがよぎった
「ブラウン博士は偉大だが・・・僕のヒーローじゃない・・・」
主人公のホーマーが 父に言った一言 

Faaaaaaaan

僕は ジェミニのフォーンを鳴らした

バックミラーの中の父が そっと右手を挙げた

子供の頃 
行ってらっしゃい!!という僕への
挨拶代わりに みせてくれた父の仕草だった・・・

今度は すぐに帰ってくるよ!
という思いを込めて
僕は もう一度 ジェミニのフォーンを鳴らした





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