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インデペンデンス・デイ ~ トルネオ ユーロR ~

 25,2016 22:39
満月が恥ずかしそうに
霞雲から顔を出す今宵は十五夜
同僚のKaoriに誘われて Cafe Bar Casablancaにやってくると
店の前には二人の男性が立っていた

陽気で普段でも人の2倍の声量を誇る
アントニオ・バンデラス風な男性は・・・
「おまたせ!」
Kaoriがハイタッチを決めた そう彼は 彼女の恋人だった
そしてもう一人・・・
バンデラスの同僚として紹介された彼は
ふわりと風になびいてしまうほど 線の細い
そう・・・
満月によく似合うススキのような人だった



「さぁ お月見飲み会といきましょうか!」
そう言うとKaoriは 私の背中を押す
私は・・・店の扉に手をかけた

Bowan!!
煙と共に 一年前まで同棲していた彼が
お気に入りだった 
グレーのフランネルのスーツの姿で登場した

”雨が降っても傘をささないボガートは 
 決して 女性に扉を開けさせない
 もちろんジェームス・ボンドも同じだ
 男の美学は 映画の中にある”

Bowan!!
そして・・・消えた
この店の扉を開けるのは 彼の役目だった

彼は 今でもこんな風に 突然私の前に現れる
それが ほんの少し心地いい

1年前 シングルになった私に気を使って
Kaoriは 頻繁に私を誘った
そのうち何度かは 
今宵のようにバンデラスと 
彼が選定した独身男性が同席した

私と彼との別れは 突然で 
彼の一方的な我儘によるものだったが それも彼らしかった
だから 普段は寂しく感じることもなかった
それでも こんな満月の日だけは
誰かそばにいてくれればいいな そんな風に思う

「映画といったら やっぱりアクション系よね!!」
早くも二杯目のジントニックを空ける Kaoriが
バンデラスの瞳に合意を求めるように言うと
ほとんど会話に入ってこなかったススキ君が ふわりと言った
「僕は SFやファンタジーのほうが 好きです」

Bowan!!
煙の中から再び 彼が出て来てきた・・・
”映画のことを知らないやつが よく言うセリフだ・・・”

「私は・・・
 ジャネット・ゲイナーのサンライズ・・・かな」
煙の中の彼に向かって 私はポツリと呟いた

「そうですか・・・」
ススキ君は また静かになった

トルネオユーロR

斜めにススキ君を見ながら
こんな古典映画 知ってるわけ無いわね・・・
やっぱり 彼を超える人はいない 彼だったら
”あー センスいいね 
 第一回アカデミー賞芸術部門 受賞作だ
 小舟のシーンが繰り返されるところは 緊迫するよ”

なんて薀蓄で返してきただろう・・・
そう思うと 自然に笑顔になった

「あら・・・ いい感じね!」
Kaoriの勘違いの一言に ススキ君は ニコリと笑った

えっ そんなつもりないのに・・・・
この状況ははまずい・・・
私は 彼との距離を遠ざけるつもりで 大きく話題を変えた

「車・・・もってますか?」

風に靡くように揺れながら ススキ君は はいと言う

そんな 彼の雰囲気からすると・・・プリウスかな・・・
私が想像を巡らせていると

Bowan!!
煙とともに 再び彼が現れた

”いや 一般受けするBMWだろう
 ちなみに俺ならホンダVテック もしくは三菱マイベックを積んだ
 NAを相棒にするけどね・・・”

私は 免許を持っていなかった 彼の言葉を感じながら
ススキ君の 次の言葉を待った

しかし・・・
彼はそれ以上 何も言わなかった

ほんの少しだけ・・・
いや ほんとに少しだけ 彼の車が何なのか気になった

お月見会は 序盤からペースが早すぎた
Kaoriが眠り姫になってしまったため
二時間足らずで お開きになった

「おい・・・ Kenji!! 彼女を頼む!」
バンデラスがKaoriを抱えて出ていった

いえ いえ・・・私は一人で十分です・・・
瞳で訴える私の想いは却下された
どうやら 
彼は はじめからそのつもりだったらしい
そう言えば
今日彼は ジンジャーエールしか飲んでなかった

店の前に シルバーの車が停車した

「!! この車・・・」

ホンダのアコードに似ているが そうではなかった・・・
ススキ君にエスコートされて 入った助手席から運転席を見ると
明らかに後付の三連メーターが目に入った

「コイツは 古いんですけど・・・トルネオ ユーロRって言います」

ススキ君が呟いた

トルネオ・ユーロRって・・・
確か VテックH22A型・・・
運転席に座る彼が ワイルドに見えた

どこまでも吹き上がるような
気持ちいいエンジン音・・・
15年以上前の車とは思えない

彼がこの車に注いだ愛情の深さを感じた

「サンライズは第一回アカデミー賞をとった名作ですけど
 あまり深く考えない直感的で 夢のある映画もいいもんですよ」
運転席の彼が呟いた

えっ サンライズ・・・知ってるの・・・
どうやら 彼は 私よりはるかに物知りのようだ
映画のことも 車のことも それ以外も それなのに・・・
決して それをひけらかさない
ターボで加給された暴力的な加速では味わえない
NAの 終わりの見えない包容力を秘めた加速感・・・
そんな雰囲気を彼に感じた



「インデペンデンス・デイ・・・僕は好きです
 今度一緒に見ませんか・・・」

何も考えないでいい・・・
ただ 素直に受け入れる 
そんな映画の楽しみ方をしてみたくなった この人と・・・

あれっ・・・
いつも 私の周りにBowariと現れた 彼の気配が消えていた

私・・・ 知らない間に ずっと引きずってたんだ・・・

ひ弱く見えていた運転席の彼が 大きく見えた

Bachiiiiiiiiiiiiiiiiin!!

「イテテ・・・」

私は 運転席の彼の肩を強く叩いた
「猫背は 幸せが逃げるよ!」

今日は 私のインディペンデンス・デイ・・・

十五夜を覆っていた霞のような雲は すっかり消え
純白の月光が
トルネオのリアガラス越しに車内を照らす

助手席の彼女の頭が ゆっくりと運転席側に傾いた





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