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銀のカチュウシャ ~ Fiat500 ~ 追憶 ~

 23,2012 23:55
小説家を目指していた僕は カノジョと共に 大学の図書館の名物だった
海野十三に埋もれる僕と 三島由紀夫で山を作るカノジョは 
図書館の2大渓谷と呼ばれていた

僕の描く世界はSF
空想の世界を中心とした科学小説(science fiction)のことだが 
僕のそれは ある漫画家が定義した「SUKOSHI FUSHIGI」
というフレーズがぴったりのライトSFだった
ただ ”ハッピーエンド”には拘った
小説の住民が 幸せになることで
混沌とした夢も希望も抱けない現実世界の読み手を 暖かくしたかった

一方 カノジョが求める世界は あたかもノンフィクションのような社会派
リアルな舞台こそ 大衆の変革を呼び覚ますことができる 
そう主張するカノジョは 荒唐無稽のドリームワールドを 偽善だと罵った

肩まで伸びたストレートに 夕日に染まる紅葉を髣髴させる紅い唇 
憂いを含んだ瞳という美女の特質をもちながら
パンツスーツに 男勝りの口調
助教授程度の論客ならば 簡単に一刀両断するカノジョには
声をかける勇敢な男はいなかった 
むしろ カノジョに嫉視した軟弱男子は 彼女を男嫌いと定義した

ところが 彼女曰く異端世界の創造主である僕だけは 
作品論議と言う名目で 常に彼女の隣にいた
 「君のstoryは浅薄だ 宇宙人との友好関係を紡いで 世の中の何が変わるんだ!
 「タイムマシーンがあることを前提とした世界に何の意味がある?
  人間の欲望と葛藤が渦巻く現実世界をテーマにしてこそ 理が生まれるんだ!」

カノジョの 理屈は興味深いが 僕にとって小説はもっと軽いものだった
 「僕の小説に主張なんてないよ ただ みんなが暖かくなってくれればいいんだ」
軟弱な答えにカノジョは吠える
 「暖かい世界だけでは 人は強くなれない 厳しい世界から目をそむけてはいけない」
 「人はリアルワールドで十分厳しさを知ってるさ」
二人の想いが交わることは無かった それでも 最後は笑ってこう締めくくられる
 「君には いつも さらりとかわされる 不思議な奴だ」
 「それが僕の真骨頂! 君も既に僕の世界の住民なのさ」
Fiat500 2

二人の時間は いつしか お互いを支えあうものに変わっていった 
僕は カノジョが密かに憧れる 
フィアット500がタイムマシンになる 冒険小説を書いた
主人公BOYは 幼馴染のGIRLと共に フィアット500を駆使して 何度も人生をやり直し 
最後に自分たちが求めていたハッピーエンドを手に入れる

僕は BOYがGIRLにプロポーズするラストシーンを真似て 
カノジョに 銀のカチュウシャをプレゼントした 
 「これで 君は生涯幸せ者だ」
ありがとうと言って カチュウシャを付けたカノジョは
僕の創作したGIRL以上に 輝いていた 

カノジョの中の 女性らしさが少しづつ形成され「結婚」という目標が見え始めた矢先
僕らは 強引にリアルワールドに引き戻された

カノジョは大学を中退して故郷に帰ることになった 
炭鉱事故で父親が急死したのだった  
 「やはり 現実世界が すべてだったよ」
カノジョの口調は 昔に戻っていた
 「そんなことはない いつかきっと迎えに行く 君はもうドリームワールドの住民だ!」
上野駅ホーム 僕の声は汽笛に消された

時代の潮流は 時計の針を加速させ 僕はドリームワールドの入り口を見失った
商社に入社した僕は がむしゃらに働いた
彼女を迎えに行かなければならないという 強い使命が僕を支えた
しかし 懸命に続けた仕事には いつしか大きな責任が芽吹いた
僕は仕事に縛られ自由を失った
そして 僕はカノジョを迎えに行くという大志を失った

 「どうかしましたか?」
”Café Old Movie”のマスターが声をかけてきた 
 「いやいや ちょっと 心臓がチクチクしてなぁ でも大丈夫だよ」
チクチクしたのは 私の心だった・・・
マスターの背後にあるテレビモニターでは 一人の女性童話作家の死が報じられていた
 『一生を 童話作りに捧げたカノジョの棺には 愛用の銀のカチュウシャが入れられた
  カノジョの最後の言葉は~物語は 私たちの子供たち 私の人生ハッピーエンド~』
Fiat500

私はFiat500に戻ると 車載DVDのスィッチを入れた  
~「The Way We Were-追憶」~
ケイティ(バーブラ・ストライサンド)がカノジョと重なる 
あれから50年 頬を涙がこぼれた 
私は 瞼をそっと閉じた すると目の前に 懐かしいドリームワールドが現れた 
また 君と戯れることができる・・・


バックミラーには富士山が見える
2/23 富士山の日 太陽に照らされた霊峰は 銀色のカチュウシャを付けていた



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