レディ・イン・ザ・ウォーター ~ チャレンジャー ~
02,2015 15:17
「先輩は 本当にモノトーンが好きなんスネ」
後輩が言う
「車も 洋服も何もかも・・・
たまには 赤とか青とか 着ないんスカ」
「これが 一番落ち着くんだよ・・・
微笑みながらポツリというと
「ふぇー」と気の抜けた 声とは言えないような音を発すると
後輩は グローブボックスを開けようとした
「そこは触るな!」
突然の怒鳴り声に驚いた後輩は 助手席でカチリと固まった・・・ ・・・ ・・・
氷点下の地下駐車場 No15に チャレンジャーを駐車する
隣には 真っ赤なロードスター
後部座席には 今日もグレートピレネーの
巨大なぬいぐるみが 鎮座する
「行ってくるよ!」
僕は ポーランド式敬礼で
ピレネーに挨拶をすると エレベーターに向かった
「頑張れよ!」
フワリと僕の背中を押すような声が聞こえたような気がした
ガラス張りのエレベーターは行先を2回押さないと
扉を閉めるのに じっくり10秒は待たされる
地球の公転に換算すると およそ300kmの移動時間分を無駄にはできない
僕は Kachi Kachi Kachiと
いつもより1つ多くボタンを押した
エレベーターの動きは 決して早くはならなかったが
突然 エレベーターのスピーカーから
僕の好きなカーペンターズが流れた
19:15・・・
いつもと同じ時間に 僕はプールサイドに立った
3年間 通い続けた市営プールには 今日も常連たちだけがいた
第4レーンは筋肉隆々のマッチョマン・・・
相変わらずパワースイミングで
天井に届くほど豪快な水しぶきを上げている
彼が泳いだ後の水面は まさに ベーリング海の荒波・・・
歩行専用の第6レーンは
そんな大波に呑まれそうになりながらも
ぽっちゃりおばさんが よちよち歩き
4人のプール監視員は
この季節・・・来場者もほとんどいないことから
テレビを見ながら アイスキャンデーを食べている
そして・・・
第2レーンには
ピンクのゴーグルが鮮やかなカノジョ・・・
僕は 今日も第5レーン・・・
マッチョがつくる 荒波は ミルキーウェイのように
僕とカノジョの世界を分断してきた
カノジョは 僕のことを気にも留めていないだろう
僕もカノジョの名前すら知らない
ただ 水の妖精ストーリー(Bryce Dallas Howard)のようなカノジョと
一緒の空間にいられることが 楽しかった
20:45・・・
プール閉館の時間は あっという間にやってきた
4人の監視員が
一瞬僕に向かってウインクをしたように見えた・・・
Peeeeeeeeeeeeeeeeeeee
一斉に吹かれるホイッスル・・・
マッチョに ぽっちゃりおばさんが 僕を見る・・・
最後の25mを全速クロールで泳ぎ切った僕は
シャワーに向かうストーリーを呼び止めた
「あの・・・」
「何か?・・・」
想像通りの マリンブルーな声・・・
「僕は 明日 この街を去ります・・・
君がいたから 僕は3年間 このプールに通い続けた・・・
勝手なお願いでスイマセン・・・
でも・・・最後に・・・最後に握手してもらえませんか」
そう言って僕は右手を差し出した
カノジョは ほんの少し悩んだあと
真っ白な右手を出した
!!
カノジョの右手には あのピンクのゴーグルがあった
「交換 しませんか?」

・・・ ・・・ ・・・
転勤を繰り返すのが 僕の仕事・・・
あまりにも 多くの街に行ったので
僕の記憶は どれもモノクロだった・・・しかし・・・
一人になった僕は グローブボックスをそっと開けた
そこには ピンク色のゴーグルがあった
あの街の記憶だけは 僕の宝箱が
天然色で 大切に保管してくれていた
後輩が言う
「車も 洋服も何もかも・・・
たまには 赤とか青とか 着ないんスカ」
「これが 一番落ち着くんだよ・・・
微笑みながらポツリというと
「ふぇー」と気の抜けた 声とは言えないような音を発すると
後輩は グローブボックスを開けようとした
「そこは触るな!」
突然の怒鳴り声に驚いた後輩は 助手席でカチリと固まった・・・ ・・・ ・・・
氷点下の地下駐車場 No15に チャレンジャーを駐車する
隣には 真っ赤なロードスター
後部座席には 今日もグレートピレネーの
巨大なぬいぐるみが 鎮座する
「行ってくるよ!」
僕は ポーランド式敬礼で
ピレネーに挨拶をすると エレベーターに向かった
「頑張れよ!」
フワリと僕の背中を押すような声が聞こえたような気がした
ガラス張りのエレベーターは行先を2回押さないと
扉を閉めるのに じっくり10秒は待たされる
地球の公転に換算すると およそ300kmの移動時間分を無駄にはできない
僕は Kachi Kachi Kachiと
いつもより1つ多くボタンを押した
エレベーターの動きは 決して早くはならなかったが
突然 エレベーターのスピーカーから
僕の好きなカーペンターズが流れた
19:15・・・
いつもと同じ時間に 僕はプールサイドに立った
3年間 通い続けた市営プールには 今日も常連たちだけがいた
第4レーンは筋肉隆々のマッチョマン・・・
相変わらずパワースイミングで
天井に届くほど豪快な水しぶきを上げている
彼が泳いだ後の水面は まさに ベーリング海の荒波・・・
歩行専用の第6レーンは
そんな大波に呑まれそうになりながらも
ぽっちゃりおばさんが よちよち歩き
4人のプール監視員は
この季節・・・来場者もほとんどいないことから
テレビを見ながら アイスキャンデーを食べている
そして・・・
第2レーンには
ピンクのゴーグルが鮮やかなカノジョ・・・
僕は 今日も第5レーン・・・
マッチョがつくる 荒波は ミルキーウェイのように
僕とカノジョの世界を分断してきた
カノジョは 僕のことを気にも留めていないだろう
僕もカノジョの名前すら知らない
ただ 水の妖精ストーリー(Bryce Dallas Howard)のようなカノジョと
一緒の空間にいられることが 楽しかった
20:45・・・
プール閉館の時間は あっという間にやってきた
4人の監視員が
一瞬僕に向かってウインクをしたように見えた・・・
Peeeeeeeeeeeeeeeeeeee
一斉に吹かれるホイッスル・・・
マッチョに ぽっちゃりおばさんが 僕を見る・・・
最後の25mを全速クロールで泳ぎ切った僕は
シャワーに向かうストーリーを呼び止めた
「あの・・・」
「何か?・・・」
想像通りの マリンブルーな声・・・
「僕は 明日 この街を去ります・・・
君がいたから 僕は3年間 このプールに通い続けた・・・
勝手なお願いでスイマセン・・・
でも・・・最後に・・・最後に握手してもらえませんか」
そう言って僕は右手を差し出した
カノジョは ほんの少し悩んだあと
真っ白な右手を出した
!!
カノジョの右手には あのピンクのゴーグルがあった
「交換 しませんか?」

・・・ ・・・ ・・・
転勤を繰り返すのが 僕の仕事・・・
あまりにも 多くの街に行ったので
僕の記憶は どれもモノクロだった・・・しかし・・・
一人になった僕は グローブボックスをそっと開けた
そこには ピンク色のゴーグルがあった
あの街の記憶だけは 僕の宝箱が
天然色で 大切に保管してくれていた
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