キー・ラーゴ ~ BMW2002 ~
28,2014 13:19
気さくで いつも高笑い
渋谷の交差点のど真ん中でも
問題なく会話ができてしまうほど 地声の大きい叔母は
僕のことを 弟のように可愛がってくれた
ぜんそくを患っていた僕は 高校を卒業するまで
叔母の家で療養していた
そこは 北陸の岬の突端に建てられた
バルト海に浮かぶ ゴッドランド島の建物に似た
オレンジ色の屋根の 小さなペンションだった

両親の意向で 大学からは 東京に戻ることになっていたため
僕は小学生のころから 受験戦争に備えて 隣町の塾に通っていた
叔母は そんな僕を毎日送り迎えしてくれた
BMW2002という 日産キューブよりもキュービックな外観に
まん丸のヘッドライトが特徴の キュートな4ドアハードトップ
しかし この車!
羊の皮をかぶった狼と言われるほど 獰猛な性格を秘めていた
「おい! 大きくなったらワッチ(私)のような女を見つけろよ! Hahaha」
男勝りの叔母の口癖だった
ロングヘアーを 無造作に後ろで束ねた
ナチュラルポニーテールの叔母は
間違いなく美人だったが
僕は 絶対に叔母のようなガサツな 女性は好きにならないと確信していた
それは・・・
運転中も 常にショートホープを咥えて
羊君(2002)の前に スポーツカーが入ってくると
”Chi!!”
と舌をならし グンとアクセルを踏む
強烈な加速がつくたびに 僕は羊君のシートに
海苔のようにへばりついた
どんな マッチョな車でも 叔母と羊君は
絶対に そのポリシーを変えることなく
且つ 狙った獲物を逃すこともなかった
「ワッチの前を走りたけりゃ もっと腕を磨いてきな!」
Ushi shi・・・
と笑う叔母の横顔は 戦いの神アテネを彷彿させる
そのたびに僕は
捕食される寸前の ガゼルのような気分になったからだ
そんな叔母を たった1日だけ女性だと思ったことがあった
その日 羊君は 本物の草食系の走りに徹していた
不思議に思った僕は
めったに見ない 叔母の運転中の横顔をこっそり覗いた
すると・・・
夕陽は ずっと前に沈んでいたのに 瞳は 真っ赤に染まっていた
そんな 僕に気づいた叔母は
「男は いつでも ボガードのように かっこつけて
そして 女より強く無くちゃいけない・・・わかったかい!」
と言って 僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でた
後で知ったことだが・・・
その日 闘病中だった
叔母のフィアンセが亡くなったのだった
やがて 僕は両親の思い通りに
東京の大学に入り そしてそのまま都会で就職についた
叔母との 10年間は 僕の海馬の奥深くに封印された
それから 10年が経った
結婚を誓っていた女性を失った僕は
オレンジ色の屋根のペンションで
カノジョを叔母に紹介する夢を見た・・・
哀愁がにじみ出る 僕を吐き出した
ローカル線が緑の丘に消えたとき
Brooooooooooo
懐かしい2002の マフラー音が聴こえた
わずかに 運転席から 飛び出すショートホープが見えたとき
僕の眼から 涙が落ちた
!!
今も健在の羊君は 駅から100m手前で停車した そして
Faaaaaaaaaaaaaaaaan
2002の改造フォーンが吠えた
「男は どんな時でも ボガードのように!」
僕には そう聞こえた・・・
そうだ・・・
叔母の前に立つときは 笑顔になろう
銃弾を脇腹に受けながらも
クールに装ったフランク少佐(Humphrey Bogart)のように・・・
100m ゆっくり時間をかけて歩いた
そして 叔母の 瞳が見える距離まで来たとき
僕はにっこり微笑んだ
「よぉ ボギーお帰り!」
叔母が 僕を男と認めてくれた時
西の空は キーラーゴ島に沈む夕日のように
そして あの時の叔母の瞳のように 真っ赤に染まっていた
渋谷の交差点のど真ん中でも
問題なく会話ができてしまうほど 地声の大きい叔母は
僕のことを 弟のように可愛がってくれた
ぜんそくを患っていた僕は 高校を卒業するまで
叔母の家で療養していた
そこは 北陸の岬の突端に建てられた
バルト海に浮かぶ ゴッドランド島の建物に似た
オレンジ色の屋根の 小さなペンションだった

両親の意向で 大学からは 東京に戻ることになっていたため
僕は小学生のころから 受験戦争に備えて 隣町の塾に通っていた
叔母は そんな僕を毎日送り迎えしてくれた
BMW2002という 日産キューブよりもキュービックな外観に
まん丸のヘッドライトが特徴の キュートな4ドアハードトップ
しかし この車!
羊の皮をかぶった狼と言われるほど 獰猛な性格を秘めていた
「おい! 大きくなったらワッチ(私)のような女を見つけろよ! Hahaha」
男勝りの叔母の口癖だった
ロングヘアーを 無造作に後ろで束ねた
ナチュラルポニーテールの叔母は
間違いなく美人だったが
僕は 絶対に叔母のようなガサツな 女性は好きにならないと確信していた
それは・・・
運転中も 常にショートホープを咥えて
羊君(2002)の前に スポーツカーが入ってくると
”Chi!!”
と舌をならし グンとアクセルを踏む
強烈な加速がつくたびに 僕は羊君のシートに
海苔のようにへばりついた
どんな マッチョな車でも 叔母と羊君は
絶対に そのポリシーを変えることなく
且つ 狙った獲物を逃すこともなかった
「ワッチの前を走りたけりゃ もっと腕を磨いてきな!」
Ushi shi・・・
と笑う叔母の横顔は 戦いの神アテネを彷彿させる
そのたびに僕は
捕食される寸前の ガゼルのような気分になったからだ
そんな叔母を たった1日だけ女性だと思ったことがあった
その日 羊君は 本物の草食系の走りに徹していた
不思議に思った僕は
めったに見ない 叔母の運転中の横顔をこっそり覗いた
すると・・・
夕陽は ずっと前に沈んでいたのに 瞳は 真っ赤に染まっていた
そんな 僕に気づいた叔母は
「男は いつでも ボガードのように かっこつけて
そして 女より強く無くちゃいけない・・・わかったかい!」
と言って 僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でた
後で知ったことだが・・・
その日 闘病中だった
叔母のフィアンセが亡くなったのだった
やがて 僕は両親の思い通りに
東京の大学に入り そしてそのまま都会で就職についた
叔母との 10年間は 僕の海馬の奥深くに封印された
それから 10年が経った
結婚を誓っていた女性を失った僕は
オレンジ色の屋根のペンションで
カノジョを叔母に紹介する夢を見た・・・
哀愁がにじみ出る 僕を吐き出した
ローカル線が緑の丘に消えたとき
Brooooooooooo
懐かしい2002の マフラー音が聴こえた
わずかに 運転席から 飛び出すショートホープが見えたとき
僕の眼から 涙が落ちた
!!
今も健在の羊君は 駅から100m手前で停車した そして
Faaaaaaaaaaaaaaaaan
2002の改造フォーンが吠えた
「男は どんな時でも ボガードのように!」
僕には そう聞こえた・・・
そうだ・・・
叔母の前に立つときは 笑顔になろう
銃弾を脇腹に受けながらも
クールに装ったフランク少佐(Humphrey Bogart)のように・・・
100m ゆっくり時間をかけて歩いた
そして 叔母の 瞳が見える距離まで来たとき
僕はにっこり微笑んだ
「よぉ ボギーお帰り!」
叔母が 僕を男と認めてくれた時
西の空は キーラーゴ島に沈む夕日のように
そして あの時の叔母の瞳のように 真っ赤に染まっていた
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